すべての花へそして君へ①


「……大丈夫そう? しんどくない?」

「うん。……みんな、いつも通りだったらいいな」

「それは……まあ、人それぞれだけど。でも、もしちょっと変わってても、あんたが自分を責める必要だけはないから。また不安になったらおいで? いい?」

「うん。……。あの」

「ん?」


 控えめにそう言ったかと思ったら、腕の中で身動ぎして、ひょこっとそこから顔を出してきた。かわいい仕草の彼女は、涙でいっぱいだった。そんな彼女に息を吐きながらも、何があったのかなと小さく笑って先を促してやる。


「も。もうちょっとだけ……。……ご褒美。もらっててもいいですか?」


 何を言うのかと思えばそんなこと。こんなのがご褒美? ほんと、欲なさ過ぎでしょ。


「バーカ。こんなのご褒美でもなんでもないよ」


 一度ぎゅっと力を入れて抱き締め、追突されてきたままだった体をゆっくりと起こし。どういうことだろうかと、首を傾げている彼女の白くてやわらかい頬を、そっとやさしく包み込む。


「こんなの、いつでも貸すに決まってるでしょ?」

「……?」


 瞬きをすると、大きな粒がころんと落ちていった。
 その、また涙を溜め始める目元へと、今までで一番やさしく、キスを落とす。


「やっと言える。やっと言ってあげられる」

「……ひなたくん」


 頬を包み込んだまま、そっと額を寄せ合う。驚いたのか、ほんの少しだけビクッと体を震わせたそんな仕草さえ愛しくて。
 そんな想いが、甘い吐息になって出ていく。


「……あおい。あの頃からオレは、……あおいのことだけが好きだった」

「ひなたくんっ」


 たっぷりと吸い込んだ息を吐き出すように。
 最近はよく出る。低いくせに誘うような……あまったるい声。こんな声、自分から出てるのが不思議でしょうがない。


「泣いたってもう、離してなんかやれないよ。犯罪するような奴でも、……あんたはオレを選ぶの?」


 答えはわかってる。何回も聞いた。きっとこんなこと聞くのはズルいかも知れないけれど。


「わ。わたしは、ひなたくんは絶対に……。泣かせない」

「え?」


 けれど、思った答えとは違っていて……。


「誰かを助けようとすることが。どうして悪いんだっ」

「……あおい」


 なんとか振り絞るような声。……もしかしたら、ちょっと怒ってるのかも知れない。こんなこと、聞いたから。


「そこまでしてくれる人を。嫌いになんてなるわけないじゃん。泣きそうなくらい、嬉しいに決まってるじゃんっ」

「……泣いてるけどね」

「うるさいっ」


 ……ああ。どうしてこんなにも。愛しい気持ちでいっぱいになるんだろう。