「……大丈夫そう? しんどくない?」
「うん。……みんな、いつも通りだったらいいな」
「それは……まあ、人それぞれだけど。でも、もしちょっと変わってても、あんたが自分を責める必要だけはないから。また不安になったらおいで? いい?」
「うん。……。あの」
「ん?」
控えめにそう言ったかと思ったら、腕の中で身動ぎして、ひょこっとそこから顔を出してきた。かわいい仕草の彼女は、涙でいっぱいだった。そんな彼女に息を吐きながらも、何があったのかなと小さく笑って先を促してやる。
「も。もうちょっとだけ……。……ご褒美。もらっててもいいですか?」
何を言うのかと思えばそんなこと。こんなのがご褒美? ほんと、欲なさ過ぎでしょ。
「バーカ。こんなのご褒美でもなんでもないよ」
一度ぎゅっと力を入れて抱き締め、追突されてきたままだった体をゆっくりと起こし。どういうことだろうかと、首を傾げている彼女の白くてやわらかい頬を、そっとやさしく包み込む。
「こんなの、いつでも貸すに決まってるでしょ?」
「……?」
瞬きをすると、大きな粒がころんと落ちていった。
その、また涙を溜め始める目元へと、今までで一番やさしく、キスを落とす。
「やっと言える。やっと言ってあげられる」
「……ひなたくん」
頬を包み込んだまま、そっと額を寄せ合う。驚いたのか、ほんの少しだけビクッと体を震わせたそんな仕草さえ愛しくて。
そんな想いが、甘い吐息になって出ていく。
「……あおい。あの頃からオレは、……あおいのことだけが好きだった」
「ひなたくんっ」
たっぷりと吸い込んだ息を吐き出すように。
最近はよく出る。低いくせに誘うような……あまったるい声。こんな声、自分から出てるのが不思議でしょうがない。
「泣いたってもう、離してなんかやれないよ。犯罪するような奴でも、……あんたはオレを選ぶの?」
答えはわかってる。何回も聞いた。きっとこんなこと聞くのはズルいかも知れないけれど。
「わ。わたしは、ひなたくんは絶対に……。泣かせない」
「え?」
けれど、思った答えとは違っていて……。
「誰かを助けようとすることが。どうして悪いんだっ」
「……あおい」
なんとか振り絞るような声。……もしかしたら、ちょっと怒ってるのかも知れない。こんなこと、聞いたから。
「そこまでしてくれる人を。嫌いになんてなるわけないじゃん。泣きそうなくらい、嬉しいに決まってるじゃんっ」
「……泣いてるけどね」
「うるさいっ」
……ああ。どうしてこんなにも。愛しい気持ちでいっぱいになるんだろう。



