「教えてあげよう」
「……?」
「やさしくない人は、別に相手振ったって泣きゃしない」
「……!」
「やさしくない人は、そもそも相手の気持ちなんか考えてない」
「……」
「やさしくない人は、ぐじぐじこんなことしてない」
「ぐ、ぐじぐじ……」
「そう。……あのね。どう言ったのかまで詳しくは知らないけど、あんたのことだから『ごめんなさい』は言わなかったんでしょ?」
「……!? な、んで」
「いや、わかるし。誰だと思ってるの」
「ご主人さま」
「いや、違うでしょ」
でも、少し落ち着いたのだろうか。あおいは、こてんと体をこちらに預けてきた。それが、かわいくてかわいくて愛しくて。抱き締める腕に、自然と力が入る。
「『ありがとう』って、そう言ったんでしょ? 違う?」
「ちがわない」
「でしょ? あのね、もう一回言うよ?」
みんなあんたが好きだから。だから泣いちゃうんだよ、どうしても。オレだって多分、振られたら泣くよ。それぐらい、泣いちゃうくらい、オレらはあんたが好きだってこと。
それから、やさしいやさしくないって言ってるけど、相手のためを思ってした返事の、どこがやさしくないの。そう思ってるのは、ほんとにあんただけ。みんなだってそう思ってるよ。
「あんたが言葉を選んでくれたから、それも嬉しくて泣いたの。わかった?」
「よかったの……。かな」
「え?」
「わたしの。返事の仕方。ちゃんと、言いたいこと……。言ったの」
「……うん。それも言った。あんたの本気の言葉なら、それが正しい答え。あんたのこと、嫌いになんてなるわけないじゃん。余計に好きになったんじゃない? これからオレが守ってやるの大変だし」
「まもる? ……だいじょうぶ」
「いや、絶対大丈夫じゃない。絶対オレの目の届くとこにいてね。わかった?」
「うんっ。わかった!」
嬉しそうに笑ったかと思ったら、また服を掴む力が強くなった。やっぱり、いろいろ不安だろうと思ったんだ。好きを知らないまま、強くて熱い好きをいろんな人から向けられて。
……でも、もうこれで大丈夫。ずっとずっと。前よりもずっと。あおいは強くなれた。



