すべての花へそして君へ①


「――ひなだぐんっ!!」

「ぐはっ」


 心構えはしてた。多分タックル並みの勢いで来ることくらいも。してたんだけど、結構吹っ飛んだ。ベッドから落ちそう。だから真ん中に座ったのに……。


「うううぅぅ……。なっ。なんでわかるのおおぉぉ」

「は? え。そんなこと聞くの? 思う存分泣き叫ぶ前に?」

「じりだいっ!!」

「……そんなの、あんただからに決まってるだろ」


 ぼろぼろと零れる涙ごと、細い体を抱き締めた。……と同時に匂うこいつじゃない匂いに正直、嫉妬で狂いそうだったけど、仕方ないから今日のところは取り敢えず我慢する。今日のところは。


「……わたしだから。わかるの?」

「あんただから、わかりたいって思うんだよ」


 顔は見えなくなってしまったけれど。またいつものように服を掴んできた彼女を、ぎゅっと抱き締める。


「な。泣いちゃった」

「え?」

「泣かしちゃったの。みんな……っ。みんなっ」

「……そっか」

「わたしがっ。泣かしちゃったの。みんなのこと……。苦しめちゃった」

「は? いや、それ別にあんた悪くないじゃん」

「でも泣いてた! 嫌だったのっ。泣かせたかった。わけじゃないっ」


 そう言って、本音を零してくれるから、まあちょっとは安心だけどね。……でも。


「あのさ、ツバサの時も言ったじゃん。しょうがないじゃん。あんたのこと、みんな好きなんだから。それで、なんであんたが傷付かないといけないの。やさしいにもほどがある」

「わたしは。やさしくなんてないんだよっ」

「えっ。ちょ、……どうしたの」


 今度はオレが、折れそうなぐらいの力で抱き締められる。“ぎゅっ”どころの話じゃない。下手したら“ボキッ”っていいそう。多分もうすぐ……。
 けど、なんでこいつはそんなことを言うのか。……ちょっと、よくわからない。


「やさしいのはみんななのっ。わたしは……。やさしくない」

「……どうしてそう思うの?」

「本当にやさしかったら。ちゃんと。きちんとお返事してると思う……。から」

(あおい……)

「嫌だったの。泣かれちゃうのも。嫌だったの。離れていって……。欲しくないの」


 友達でもなくなってしまうと、そう思ったのだろう。
 でも、それもさっき言った。ちゃんと聞いてたくせに。覚えてるくせに。


「だから、そんな奴らじゃないって言ってるじゃん。それは杞憂。無駄な心配。わかった?」

「やさしく……。ないもん」

「え? やさしくない方がいいの?」

「……」

(ああ。やさしくはありたいのね……)


 今の何が、どこが、やさしくないんだか。返事なんかもらわなくても、みんなわかってるってば。これも言ったじゃん。


(……でも、伝えるって決めたのはこいつ自身)


 それがどんな方法であれ、一応であったとしても、言えたんだ。ほんと、よく頑張った。