すべての花へそして君へ①


 大人びた笑顔のまま、やさしく頭を撫でられる。そんなことをされるだけで、胸が、じんわり熱を持った。
 けれど、どうして彼は、こんな表情をしているのだろうか。


「よく、できました」

「……!」

「よく、頑張りました」

「ひっ、ひな」

「よく言えました。よく、我慢しました」

「……」

「しんどかったね。よく言えたね。頑張った。頑張ったね」

「……わ。わたし、は……」


 なんで彼は、なんでもわかってしまうんだろうか。


「キツかったと思う。でも、引き延ばすよりはいいでしょ?」

「……ん」

「あんたのためを思ってたけど、ただの自己満足。今日でもうしんどいのは終わり。苦しい思い、させたね。ごめんね」

「……! ちっ、ちが……」


 ヒナタくんのせいなんかじゃない。わたしが。わたしが……。もっとちゃんとしてたら。
 そう言いかけたわたしに泣きそうな顔で笑った彼は、そっと体を起こし、少しだけ離れた場所に座った。


「……ひなた、くん?」


 ほんの少し俯き加減の彼に不安になったわたしも、そっと体を起こして布団から脱出する。


「こんなもんで、申し訳ないけどね」


 俯いたまま申し訳なさそうにしながら、彼はゆっくりと座り直す。


「……オレは、どうこう言えるような立場にはいない」


 こちらへと体を向け、今度は自嘲気味に笑う。


「だってオレは、みんなからあんたを奪ったんだ。まあ、返す気なんてさらさらないけどね」


 そして……ゆっくり。小さく、腕を広げる。


「ごめんけど、あんたの嘘なんてバレてるよ。だから報告しに来いっつっただろ」


 ご機嫌斜めのような彼の言葉には、やさしさしか入っていなくて。


「オレが気付かないと思う? バカだね。アウト取ってこいって言ってる時点で、もうこうなることくらいオレだって予想できてんだよ」


 口が悪くても。やさしさだけは。十分伝わってきて。


「なんのためにオレがいるんだよ。お願いだから、もう一人で抱え込むのだけはやめてよ。……言ったじゃん。心配掛け合いっこしようって。今じゃん。するの」


 瞬きすることなく、頬を熱い涙が伝っていった。


「心配してたんだって、ずっと。わかれよ、それくらい。だから来たんじゃん。だから報告しに来いって言ったんじゃん。オレは、……あんたのなんなんだよ」


 絶え間なく流れるそれのせいで、わたしの視界はずっとぼやけたままだった。
 ……けど。それでも。彼の、やさしい声に誘われて。


「おいで、あおい。頑張ったご褒美。オレが思う存分」


 ――……慰めてあげるから。

 その声頼りに。彼に思い切り飛びついた。