大人びた笑顔のまま、やさしく頭を撫でられる。そんなことをされるだけで、胸が、じんわり熱を持った。
けれど、どうして彼は、こんな表情をしているのだろうか。
「よく、できました」
「……!」
「よく、頑張りました」
「ひっ、ひな」
「よく言えました。よく、我慢しました」
「……」
「しんどかったね。よく言えたね。頑張った。頑張ったね」
「……わ。わたし、は……」
なんで彼は、なんでもわかってしまうんだろうか。
「キツかったと思う。でも、引き延ばすよりはいいでしょ?」
「……ん」
「あんたのためを思ってたけど、ただの自己満足。今日でもうしんどいのは終わり。苦しい思い、させたね。ごめんね」
「……! ちっ、ちが……」
ヒナタくんのせいなんかじゃない。わたしが。わたしが……。もっとちゃんとしてたら。
そう言いかけたわたしに泣きそうな顔で笑った彼は、そっと体を起こし、少しだけ離れた場所に座った。
「……ひなた、くん?」
ほんの少し俯き加減の彼に不安になったわたしも、そっと体を起こして布団から脱出する。
「こんなもんで、申し訳ないけどね」
俯いたまま申し訳なさそうにしながら、彼はゆっくりと座り直す。
「……オレは、どうこう言えるような立場にはいない」
こちらへと体を向け、今度は自嘲気味に笑う。
「だってオレは、みんなからあんたを奪ったんだ。まあ、返す気なんてさらさらないけどね」
そして……ゆっくり。小さく、腕を広げる。
「ごめんけど、あんたの嘘なんてバレてるよ。だから報告しに来いっつっただろ」
ご機嫌斜めのような彼の言葉には、やさしさしか入っていなくて。
「オレが気付かないと思う? バカだね。アウト取ってこいって言ってる時点で、もうこうなることくらいオレだって予想できてんだよ」
口が悪くても。やさしさだけは。十分伝わってきて。
「なんのためにオレがいるんだよ。お願いだから、もう一人で抱え込むのだけはやめてよ。……言ったじゃん。心配掛け合いっこしようって。今じゃん。するの」
瞬きすることなく、頬を熱い涙が伝っていった。
「心配してたんだって、ずっと。わかれよ、それくらい。だから来たんじゃん。だから報告しに来いって言ったんじゃん。オレは、……あんたのなんなんだよ」
絶え間なく流れるそれのせいで、わたしの視界はずっとぼやけたままだった。
……けど。それでも。彼の、やさしい声に誘われて。
「おいで、あおい。頑張ったご褒美。オレが思う存分」
――……慰めてあげるから。
その声頼りに。彼に思い切り飛びついた。



