すべての花へそして君へ①


「置物とは卑怯な――ふがっ!?」

「え? なに?」


 起き上がった途端視界が枕でいっぱいになり、挙げ句の果てには、呼吸までも止めにかかられる始末。


「んんんー!!!!」

「え? なに? よく聞こえないんだけどー」


 えっ。ち、ちょっとちょっと! この人本気で殺す気なんですけど!?
 大きな枕を顔面に乗せられ。その両サイドは彼の手によって押さえつけられ。これからやっと、幸せライフがはじまると思ったのにっ。まさかの序盤で窒息し――


「――ぷはっ!! ……し、死ぬかと思った……」

「んなわけないでしょ」


 いや、そうは言いますけど。あなたされたことないでしょ? わからないでしょ?
 ……って突っ込みたいけど、取り敢えず今はそれどころでない。


「それで? あおいちゃん。どーして来てくれなかったのかな? 報告に来るまで待ってたんだけど? ご主人様の命令が聞けないような下僕だったのかな?」

(人生最大のピンチかも知れない……)


 完全に組み敷かれたわたしは、上から見下ろしてくる彼の顔が怖くて見られませんでした。
 けれどわたし、結構予測とか得意なんですよね。あはは。


(絶対に楽しそうに笑っていると思いますっ)

「あ。そういえばオレ、日を跨ぐまでって言ったよね。今、何時かわかる? 時計、読めるかな?」

「ううぅぅ。さ。3時半。ですぅ……」

「あ。時計は読めるんだー。あれ? でも、日跨いじゃってるね。 そういう時は……どうなるんだったっけ」

「……!?」


 おかしい。さっきまで、目の前のこの人とくっついてたいとか。そんなこと思ったけど……。


「ねえ。どうだったの。教えて」


 一段と低く声を出してきた彼と、今すぐ距離を取りたいと思うんですけど。
 ギシッとなるベッド。妄想していたのは、もっとなんだか色っぽいようなことだったけれど。


「言えたの。言えなかったの。どっち」


 組み敷いてくる彼は、ちょっとどころではないくらい怒ってらして。サイドにつく手にも力が入っているようで。


(まだ閻魔大王様相手にした方が怖くないかも知れないっ)


 って、頭の半分くらいは思った。


「はあ。……教えて? ちゃんと、言えた?」

「……? ひなた、くん?」


 でも、さっきまでの意地悪な彼は、すぐにどこかへ行ってしまった。


「言えた? 言えなかった? ……オレには、教えてもくれない?」


 代わりに見えるのは切なげに歪める顔。代わりに聞こえるのは切ない声。
 一瞬でスイッチが切り替わったような速さに、目を何回も瞬きする。


「い。一応は……言えたと思う、けど」


 そう言うと、彼はすごくやさしい顔で笑った。


「そっか。言えたんだね」

「ひ、なたくん?」