「置物とは卑怯な――ふがっ!?」
「え? なに?」
起き上がった途端視界が枕でいっぱいになり、挙げ句の果てには、呼吸までも止めにかかられる始末。
「んんんー!!!!」
「え? なに? よく聞こえないんだけどー」
えっ。ち、ちょっとちょっと! この人本気で殺す気なんですけど!?
大きな枕を顔面に乗せられ。その両サイドは彼の手によって押さえつけられ。これからやっと、幸せライフがはじまると思ったのにっ。まさかの序盤で窒息し――
「――ぷはっ!! ……し、死ぬかと思った……」
「んなわけないでしょ」
いや、そうは言いますけど。あなたされたことないでしょ? わからないでしょ?
……って突っ込みたいけど、取り敢えず今はそれどころでない。
「それで? あおいちゃん。どーして来てくれなかったのかな? 報告に来るまで待ってたんだけど? ご主人様の命令が聞けないような下僕だったのかな?」
(人生最大のピンチかも知れない……)
完全に組み敷かれたわたしは、上から見下ろしてくる彼の顔が怖くて見られませんでした。
けれどわたし、結構予測とか得意なんですよね。あはは。
(絶対に楽しそうに笑っていると思いますっ)
「あ。そういえばオレ、日を跨ぐまでって言ったよね。今、何時かわかる? 時計、読めるかな?」
「ううぅぅ。さ。3時半。ですぅ……」
「あ。時計は読めるんだー。あれ? でも、日跨いじゃってるね。 そういう時は……どうなるんだったっけ」
「……!?」
おかしい。さっきまで、目の前のこの人とくっついてたいとか。そんなこと思ったけど……。
「ねえ。どうだったの。教えて」
一段と低く声を出してきた彼と、今すぐ距離を取りたいと思うんですけど。
ギシッとなるベッド。妄想していたのは、もっとなんだか色っぽいようなことだったけれど。
「言えたの。言えなかったの。どっち」
組み敷いてくる彼は、ちょっとどころではないくらい怒ってらして。サイドにつく手にも力が入っているようで。
(まだ閻魔大王様相手にした方が怖くないかも知れないっ)
って、頭の半分くらいは思った。
「はあ。……教えて? ちゃんと、言えた?」
「……? ひなた、くん?」
でも、さっきまでの意地悪な彼は、すぐにどこかへ行ってしまった。
「言えた? 言えなかった? ……オレには、教えてもくれない?」
代わりに見えるのは切なげに歪める顔。代わりに聞こえるのは切ない声。
一瞬でスイッチが切り替わったような速さに、目を何回も瞬きする。
「い。一応は……言えたと思う、けど」
そう言うと、彼はすごくやさしい顔で笑った。
「そっか。言えたんだね」
「ひ、なたくん?」



