すべての花へそして君へ①


「いろんな話があって、こんがらがってるところ悪いんだけど……」


 しばらく抱きついていたら、彼らしくないちょっと遠慮がちな声。どうしたんだろうと、ゆっくりと視線を上げると。


「ねえ、あおいちゃん? どうして部屋に帰ってたのに、報告に来なかったのかな?」


 ……あれ。さっきの遠慮がちな声はどこへ?
 そこには、と~っても楽しそうに笑っている彼がいました▼

 ピピーッ!
 わたしはいち早く危機を感知!

 ①サッと。遅くも速くもないスピードで敵から離れましょう▼


「え? あ、あおい?」


 ②一歩また一歩と、背は向けず、お尻と手で上手に敵から距離を取りましょう▼


「え。お、おーい」


 ③ぼふぼふと、枕を整えてそのまま掛け布団を捲りましょう▼


「……おーい」


 ④捲ったところからゆっくりベッドへ潜りましょう。
 よし! これで完璧だ! あー。今日はとってもいい夢が見られそうっ。なんてったって、素晴らしい日だ。記念すべき日だ。そしてなにより、ふかふかのベッドがとっても気持ちいい。


「……おい」


 ⑤わたしは掛け布団を頭のてっぺんまでしっかりと掛けた▼
 うむ。これでよい。バッチリである。


「おやすみなさーい。くかー……」

「寝させないよ?」


 おっとどっこい。お布団のせいでどんな顔をしているのかはわからないけれど、とてつもない殺気を感じまーす。
 そんなことを布団の中で考えていたら、ギシッとベッドが音を立てて軋んだ。そして、何かがこちらへと来る振動で少し体が跳ねてるけど、それ以上に心臓さんがとてつもなく跳ねております。

 そうこうしているうちに、両サイドの布団が重くなった。……見なくてもわかる。絶対今、真上にいる。組み敷かれてるうぅ。


「……」


 けれど、それ以上何にもしてこなかった。
 あれ? すごい静かだし……。え。いなくなった? 部屋から出て行った?


(もっ、もしやこれは……)


 ヒナタくんと見せかけた置物だったりするのかも知れないっ!
 何も言わずに逃げてしまったから、取り敢えずは返事を言えたのかどうかだけでも報告をしようと、わたしは思い切り布団をはぎ取った。