「んしょっと」
「ぅえっ!?」
バタンと扉が閉まった瞬間、体が宙に浮いた。
「ちょっと。暴れないでよ」
「あっ。歩けるよっ」
「嘘ばっかり」
いとも簡単に持ち上げられ、そしていつもよりも近い彼の顔に、大きく心臓が跳ねた。
「あり。がと」
「……ん」
そっとベッドへ下ろしてくれた彼は、ご丁寧に履いてたスリッパも脱がしてくれた。
そんな彼の横顔をじっと見つめていると、「……なに」とほんの少しだけ照れているような声が、横目と一緒に返ってくる。
「そんなに見られたら穴が空く」
「すっ、すみません。ご主人さまっ」
慌てて顔を覆うと、小さく噴き出した音。指の間から音の正体の彼を確認する。
「大丈夫そうだね」
「……。はい」
覗き込むように頭をポンポン撫でてくる、やさしい笑顔の彼は、すごく大人っぽく見えた。
「さてと。何かわからないことは? まあオレもさっき聞いたから、そっくりそのまま答えることくらいしかできないけど」
彼も靴を脱ぎ、二人でベッドに座り込む。……わからないこと、というよりは、聞きたいことが。
「……あの。シントは?」
「……どうやっても他人のことが心配でしょうがないんだね」
「それは。お互い様でしょう?」
一度言葉を詰まらせた彼は、ゆっくりため息を吐いた。
「シントさんの場合は、結局仕分け自体がもう普通の薬だったんだ。だから、薬物に関してあの人は何も関与してないよ」
「……そ、か」
聞いても、やっぱりまだ実感が湧いてこない。……でも、ほっとした。彼は、わたしと一緒に罪を負ってしまったと。そう思っていたから。
そっと、左手首を握る。そこから見える黄色に、涙が出そうになった。
「……やったじゃん。友達、増えたんだね」
きっと、黄色が目に入ったんだろう。返事をしようと思ったけれど声が出なくて。何度も何度も頷いて返事をした。
次期当主になる彼の人生を、潰してしまったと思っていた。……でも、そっか。きっともう、知っていたんだ。だから彼は、次期当主の話しか、わたしにはしなかったんだな。自分が罪など背負っていないことを、彼は口にしなかったから。
だって真面目な彼だもの。本当に罪を負っていたのなら、彼もまた、わたしと一緒に檻の中だったはずだから。
「……月雪と日下部は?」
「月雪の方は、シントさんと同じ感じ。日下部は、薬物の倉庫みたいなことしてたからアウト。関係者はみんな捕まった。もちろんカオルはセーフだよ」
それから百合の理事。その人もまた、この計画に荷担していたため逮捕された。
大変な事件だったけれど、今はもう次の理事長の選出も時間の問題らしい。信用云々は、これからどうなるかによるだろうけれど、有力候補の基板がしっかりしてるみたいで、立て直すのにも時間はそうかからないだろうとのこと。
「……そっか」
「他は? あんたのことは?」
「ん? ……それが本当だったら。すごいな~って」
「いや、本当なんだけど」
「……ちょっとふわふわしてて。信じられなくて。落ち着いたら、冷静に判断できるんだろうけど。今は。それが事実なんだって。噛み締めるので精一杯かな」
「……そっか」



