でも、それだったらお得意の消す方法だって選べたはずだ。それをしなかったのは、少なからず恩がある彼女に、手など下すことができなかったのではないか。最後の良心が止めてくれたのではないかと、オレは思う。
あいつ自身が傷つけられることを恐れたアオバさんは、あいつとは決して会わないように、屋敷内で心掛けていたらしい。そして、シントさんが執事として屋敷に来た時は、ものすごく嬉しかったみたいだ。
……いつも泣いていたからって。オレを、……ルニを亡くしてしまったから、と。
「……それが。あなた?」
「……言わないでください。二人には」
二人に内緒で、そっと小声で話す。そしたら、アオバさんがなんだか嬉しそうに笑ってた。
「よかった。あおいちゃん、いつもお花畑行ける日が楽しみだったみたいなの。だからわたし、てっきり……その。お友達以上に思ってるんじゃないかなって」
「……まあ、実際そうだったみたいですよ。さっき教えてもらったんで」
「……! そうだったんですね。それは……本当によかった」
彼女のやさしい表情にピッタリの、澄んだ穏やかな声だった。こうして、言葉にすることができるようになって、笑顔になれて。
「……今度は、オレが手を拭いてないおしぼりで作りましょうか」
「……ふふっ。はい。よろしくお願いします」
オレがやってきたことは間違いなどではなかったんだと。本当によかったと。心から、そう思った。
「それで? アオバさんはどうしてこちらへ?」
「あ。はい。それはですね……」
その話になった時、ちょうどオレの捜していた人がやってきた。
「あ! いたいた! 九条くん」
「あ。すみません、遅くなりました」
「全然いいのよ。……あ。三舟さんとはもう話したの?」
「三舟さんって仰るんですね。すみません、下のお名前しか知らなくて」
「え? いえいえ。大丈夫ですよ」
「三舟さんには、今回の事件の重要参考人として一緒についてきてもらっていたの。私よりあの三人のこと、よくご存じだったから」
「あ。そうなんですね。お疲れ様でした」
「え? いえいえ。わたしなんかでお役に立てれば」
「それでね? 三舟さんにお話を聞いたの。あなたに話したかったことなんだけど、今大丈夫かしら」
「え? はい。オレは、いいですけど……」
そう言いつつ、二人に目を向ける。でも、どうやら話の内容については知っているようだった。恐らく、大人たちには既に話をしていたんだろう。
一体何の話なんだろうと彼らをぐるりと見渡すと、みんな小さく笑っていた。
「これ以上ない朗報よ」



