「なので改めて言わせてください! 理事長。本当にありがとうございます。あなたのおかげでわたしは今、ものすっごい幸せですっ」
「……うん。ほんと、よかったよ」
「でも、それなら知ってたんじゃないんですか? モミジさんのこと」
「いや、ほんとにそればっかりは知らなかったよ。乗っ取るとか乗り移るとか憑くとか、そういうのって信じてないし」
「そ、そうですか」
「でもまあ、名前くらいは。だから、ぼくが知ったのは本当に数日前。彼女が話した時に驚いたんだよ」
「……そうですか」
「でも、もう彼女のように、命がぞんざいに扱われるような家や宗教などがないよう、これから海棠と朝日向は網を張っていくつもりだよ」
「……! ……はい。ありがとうございます」
日本業界のトップたちが、まさかそんなことをしているなんてこと、誰も気付くことはないだろう。でも、やさしい人たちに見守られている以上に、安心できるものなどないなと思う。
「……ここだけの話、多分日向くんは気が付いてないんだと思うんだよね」
「あ。それはわたしも思っていました」
それは、ハートの話。彼はきっと、わたしを助けるのに必死で、そこまで考えが回らなかったんだと思うけれど。
「だってあれ、作ったの海棠だから。それ持って行って彼が捕まったら、ぼくたちまで捕まるし。一気に落ちぶれていっちゃうし」
「ですよね~……。よかった、ほんと」
首元を揺らすそれは、今はもう機能を失ってしまったけれど。
「正直、こればっかりは賭けだった。日向くんに依頼された時、本当は断ろうと思っていたんだよ。……でも、頭を下げて言うもんだから。何かあった時は、海棠を潰してでもぼくが自首しようと思っていたよ」
「理事長……」
彼もそこまで考えていたのかと思うと、自分の頑固さに、申し訳なさが募った。
「葵ちゃんがそんな顔をする必要はない。君がやさしい子で、本当によかったよ」
「……わたしは、やさしくなんてないですよ」
「そう思うのは自分だけだ。自分のことを悪く言うところは、これから治していくべきところだと思うけどね」
「……気を付けます」
「そんなに気にしてたら禿げちゃうよ? ぼくも気を付けてるんだ~」
「き、気をつけます……」
これから自分はどうしていくべきなのか。これから自分はどうあるべきなのか。……取り敢えず今は、頭のことを気にしておこうと思うけど。
「あ。ちょっと聞いてみたいんだけど」
「え? はい。なんですか?」
今更何を聞くことがあるのかと思った。こちらからはあったけれど、わたしの情報なんて、もう筒抜けだろうし。
「信人くんは、望月を知っていたのかな?」
「シント、ですか……?」
身構えていた分、少しだけ拍子抜けだった。



