「だからね? ちゃんと気付いたのはその時。……でも、前に会ってたからってわけじゃないよ?」
「うん。知ってる。葵は、そんなことで判断するような子じゃないってわかってるよ」
「……そっかー」
ゆっくりと離れていくのかと思ったら、今度はおでこを合わせてきた。甘えん坊の彼に初めはどうしようかと思ったけれど。それを退けられない辺り、やっぱり自分は甘いなと思ってしまう。
まあ、これもお給料に入れてあげよう。そう思うことにした。
「葵の気持ち。わかりたくないけどわかっちゃうんだ。俺、頭良いから」
「ははっ。そっか~」
「そうそう。……でも、やっぱりどうしても嫌だから、今度は俺が申し込んじゃおっかな」
「え。な、なにを……」
「え・ん・だ・ん。皇次期当主から、朝日向の長女さんへ~」
「おう。ほんとにありそうだし」
「俺頑張っちゃうからさー。承諾してよー」
「それは今のところは予定にありません。悪しからず」
「えー。けちー」
ちゃんとわたしは理解している。わたしのことを思ってくれている、強くて熱くて大きな想いも。
「もしかしたら、俺らの関係を利用して勝手に皇の奴等が送りつけるかも知れないから、それは破棄してくれていい。もしあればの話だけど」
「……わかった」
そして、二つ上の彼は、もう未来を見据えていることも。
「戻ってきた以上。次期当主になる以上。もう俺は、葵に何一つしてやれない」
「……しんと」
「きっと最後。これが最後。……今日が終わるのが、怖い」
そして、何よりも。責任感が強くて真面目で繊細だということ。……十分わかってる。
きっと、シントのことだけはヒナタくん以上に知っているだろう。
(……そう言ったら、拗ねちゃうかも知れないけれどね)
心の中でそっと小さく笑ったあと、わたしはシントの肩に手を置いた。



