落ち着いたのか。もう泣き声を上げなくなったネコが、そっと顔を上げた。
「……さんきゅ。きさ」
「……ちか?」
つらいはずのなのに。苦しいはずなのに。悲しいはずなのに。寂しいはずなのに。
「やっぱすげえよな、葵ちゃん」
「え?」
「うっせ」
「ええ……?」
杜真には、なんだか本当に嬉しそうな笑みが浮かんでいて。チカも、真っ赤になった目元だけれど、口は少し端の方が上がっていた。
「お前ら。今日はもう遅いからフラフラすんなー? 寝られんなら会場にいろ。それか部屋で思う存分泣け」
「きっ、菊ちゃん!!」
けれど、そんな言う菊ちゃんに、二人はニカッと笑っていた。
「んじゃ、顔でも洗ってくっか」
「しょうがないからついていってあげよう」
「は? な、なんでだよ」
「え? チカが便所で泣かないように見張ってあげるんじゃん」
「もう泣かねえよ!!」
そう言いながら、二人は会場の方へと歩いて行っていった。なんだかよくわからないままいろんなことが過ぎ去っていって、正直自分だけ置いてけぼりだった。
「キサは? 会場行く? それともオレの部屋来る?」
「……きくちゃん」
ただそう言っただけなのに、彼はそっと腰を引き寄せて歩き出した。いや、部屋に行くって意味で名前を呼んだわけじゃないんだけど。まあ、行こうとは思うけれど。
「……あっちゃん語の読解力が欲しい」
「んなもんすぐわかる。お前が今、いろんなこと考えてっからわかんなかっただけ」
「え?」
なんでバレていたんだろう。そんな素振りは……してなかったはずなんだけどな。
「お前のはただの杞憂。あいつがお前らをどんだけ好きか、知ってるだろ?」
「……きくちゃん」
しかも、何に悩んでいたのかさえもバレてしまっていた。……そういうところも、やっぱ好きだな。部屋に着くと、二人してベッドに腰掛けた。寄り添う温かさが、胸に沁みる。
「ちゃーんと考えてるよ、あいつは。だから、お前があいつらのこと、振られた奴のことまで気にする必要はねえよ」
「……そっか。そうだよね」
誰よりもやさしくて温かい彼女は、みんなのことまで考えた返事を、してあげたんだ。
「(……まあ、逆に言えば、キツいのはあいつの方だけどな)」
「……菊ちゃん? なんか言った?」
「んや、なんもねえよ」



