「……皆さん、何かご用事が?」
「え? ううん? 特にはないんだけど、目が冴えちゃったんだ。あっちゃんは?」
「わたしは……ちょっとね」
珍しく言葉を濁す彼女に、ちょっと驚く。それは、二人も同じようだった。
「……あの。ひとつだけ、お願いをしてもいいですか?」
「ん? どうしたの?」
「あのねキサちゃん。実はさっき、向こうの柱の陰でネコさんを見つけたの」
「え。ね、ネコ?」
「そうなの。でね? 寂しそうだから声かけてあげたあと、わしゃわしゃ~ってなって、それでついて来るって言うもんだから、いいよって言ったの」
「「「??」」」
「もしかしたら、置いてきちゃったから泣いてるかも知れないの。……ううん。置いてきちゃったからじゃないか。ネコさんは、わたしがバイバイしちゃったから泣いちゃうのかも」
「……? あっちゃん?」
彼女が言ってることはよくわからなかった。でも杜真は「了解」と、彼女の頭をポンと触って、今さっき彼女が来た道を歩いていく。
「お前が気にすることはねえよ」
「……すみません。ありがとうございます」
菊ちゃんまでそんなことを言って、彼女の頭にチョップを入れて杜真のあとを追う。
「あっ。待ってよー! ……あっちゃん。大丈夫?」
「……え?」
でも、その言葉はわからなくても、彼女の表情が少し暗いことは、十分見て取れた。
「……うんっ。大丈夫だよ! おやすみキサちゃん」
「う、うん」
やさしい笑顔だけれど……でも、なんだか触れられて欲しくなさそうだったから、あたしも急いで彼らのあとを追うことにした。
「この……おばか」
辿り着いてすぐにわかった。本当に、柱の側に頭を抱えて蹲ったネコがいたからだ。
つらいのに。苦しいのに。悲しいのに。寂しいのに。我慢なんて、する必要なんてないのに。涙で肩が濡れた。でもそのネコの泣き声は、服や体に吸収されて、何を言っているのかまではわからなかった。
誰かはこうなるってことは、わかっていた。自分の大切なみんなが、……こうなってしまうことが。わかってた。今までの関係が少し、崩れてしまうことくらい。わかってた。彼女を幸せにできるのは、一人だけだってことくらい。
(あっちゃんが……。いっぱいいたらいいのにね)
みんなが幸せになれないことが、すごく嫌だなと思った。自分が今、こんなにも幸せでいられるのは、他でもない。みんなのおかげだというのに。



