すべての花へそして君へ①


「……皆さん、何かご用事が?」

「え? ううん? 特にはないんだけど、目が冴えちゃったんだ。あっちゃんは?」

「わたしは……ちょっとね」


 珍しく言葉を濁す彼女に、ちょっと驚く。それは、二人も同じようだった。


「……あの。ひとつだけ、お願いをしてもいいですか?」

「ん? どうしたの?」

「あのねキサちゃん。実はさっき、向こうの柱の陰でネコさんを見つけたの」

「え。ね、ネコ?」

「そうなの。でね? 寂しそうだから声かけてあげたあと、わしゃわしゃ~ってなって、それでついて来るって言うもんだから、いいよって言ったの」

「「「??」」」

「もしかしたら、置いてきちゃったから泣いてるかも知れないの。……ううん。置いてきちゃったからじゃないか。ネコさんは、わたしがバイバイしちゃったから泣いちゃうのかも」

「……? あっちゃん?」


 彼女が言ってることはよくわからなかった。でも杜真は「了解」と、彼女の頭をポンと触って、今さっき彼女が来た道を歩いていく。


「お前が気にすることはねえよ」

「……すみません。ありがとうございます」


 菊ちゃんまでそんなことを言って、彼女の頭にチョップを入れて杜真のあとを追う。


「あっ。待ってよー! ……あっちゃん。大丈夫?」

「……え?」


 でも、その言葉はわからなくても、彼女の表情が少し暗いことは、十分見て取れた。


「……うんっ。大丈夫だよ! おやすみキサちゃん」

「う、うん」


 やさしい笑顔だけれど……でも、なんだか触れられて欲しくなさそうだったから、あたしも急いで彼らのあとを追うことにした。


「この……おばか」


 辿り着いてすぐにわかった。本当に、柱の側に頭を抱えて蹲ったネコがいたからだ。
 つらいのに。苦しいのに。悲しいのに。寂しいのに。我慢なんて、する必要なんてないのに。涙で肩が濡れた。でもそのネコの泣き声は、服や体に吸収されて、何を言っているのかまではわからなかった。
 誰かはこうなるってことは、わかっていた。自分の大切なみんなが、……こうなってしまうことが。わかってた。今までの関係が少し、崩れてしまうことくらい。わかってた。彼女を幸せにできるのは、一人だけだってことくらい。


(あっちゃんが……。いっぱいいたらいいのにね)


 みんなが幸せになれないことが、すごく嫌だなと思った。自分が今、こんなにも幸せでいられるのは、他でもない。みんなのおかげだというのに。