「キサ。寝ろ」
何度そう言われたか。菊ちゃんの部屋に行っても、やっぱり寝られなかった。
「ダメだ。今日は目が冴えちゃってる」
「……まあ、だろうな」
起き上がったあたしを、彼はそっと片手で引き寄せた。同じくらいの体温のはずなのに、どうして人と人は触れ合ったら、温かいと感じるのだろう。
「今日は、久し振りに登校しなきゃいけないのに」
「オレも休みてえ」
「ダメだよ菊ちゃん。ただでさえ教師の仕事ほっぽったでしょ?」
「昨日だけだろ? それ以外は、ちゃんと毎日ここに帰ってきて、夜は話聞いただろ」
「そうだけど、ダメ」
「わかってるよ」
そっと髪にキスをされる。面倒臭いだなんだと言っておきながら、やっぱり彼はこの仕事が好きなんだなと、いつも思う。……そんな彼も、あたしは大好きだ。
「ちょっとお散歩しよ? 寝られないんだったら、思う存分満喫しなくっちゃ」
「そうだな、……っと」
そう言って、何故か知らないんだけどベッドに逆戻りさせられた。あれ? あたし、今お散歩しようって言わなかったっけ。
「き、きくちゃん?」
「寝られねえんなら、オレがへとへとになるまで抱いてやるよ」
そう言うや否や、そっとやさしく口づけを落としてきた。それだけで、抱くつもりはないんだなとわかる。
「……オレ的には、そんなことよりも構って欲しいけど」
「お子ちゃま」
「でもまあ、どうやったって寝れねえんだから、女王様にお付き合いしますよ」
「それはどうも」
ふっと起こされた勢いで、彼の腕の中に収まる。……この距離に居られることが未だに信じられなくて、いろんな気持ちが込み上げていた。
「……行くか」
「……うん」
彼も同じことを思ったのだろうか。きっと、今の間はそうだろうなと思った。



