すべての花へそして君へ①


「キサ。寝ろ」


 何度そう言われたか。菊ちゃんの部屋に行っても、やっぱり寝られなかった。


「ダメだ。今日は目が冴えちゃってる」

「……まあ、だろうな」


 起き上がったあたしを、彼はそっと片手で引き寄せた。同じくらいの体温のはずなのに、どうして人と人は触れ合ったら、温かいと感じるのだろう。


「今日は、久し振りに登校しなきゃいけないのに」

「オレも休みてえ」

「ダメだよ菊ちゃん。ただでさえ教師の仕事ほっぽったでしょ?」

「昨日だけだろ? それ以外は、ちゃんと毎日ここに帰ってきて、夜は話聞いただろ」

「そうだけど、ダメ」

「わかってるよ」


 そっと髪にキスをされる。面倒臭いだなんだと言っておきながら、やっぱり彼はこの仕事が好きなんだなと、いつも思う。……そんな彼も、あたしは大好きだ。


「ちょっとお散歩しよ? 寝られないんだったら、思う存分満喫しなくっちゃ」

「そうだな、……っと」


 そう言って、何故か知らないんだけどベッドに逆戻りさせられた。あれ? あたし、今お散歩しようって言わなかったっけ。


「き、きくちゃん?」

「寝られねえんなら、オレがへとへとになるまで抱いてやるよ」


 そう言うや否や、そっとやさしく口づけを落としてきた。それだけで、抱くつもりはないんだなとわかる。


「……オレ的には、そんなことよりも構って欲しいけど」

「お子ちゃま」

「でもまあ、どうやったって寝れねえんだから、女王様にお付き合いしますよ」

「それはどうも」


 ふっと起こされた勢いで、彼の腕の中に収まる。……この距離に居られることが未だに信じられなくて、いろんな気持ちが込み上げていた。


「……行くか」

「……うん」


 彼も同じことを思ったのだろうか。きっと、今の間はそうだろうなと思った。