「ひなた……。貸してくれる面積が、狭すぎるって……」
たとえば肩とか。胸を貸せとは言わねーけど、せめて手の平にするとか。
「いらねーわっ。ばーか……」
恐らく今のが最後だろう。そう思ったオレは、乱暴にスマホをポケットに戻した。
「なにがアタリだ。くそっ。ただの罰ゲームじゃねーか」
口にした。思ったことを、どんどんどんどん。あの野郎からのクソみたいなメールの文句を。……文句、を。
「……っ。やっぱ、きっつ……」
――これは。文句じゃない。
「……っ、んっ」
それを皮切りに、アオイへの想いがとめどなく溢れ始めた。
「――。……っ」
さっき思ってたのもほんとだ。つらいけど嬉しい。あいつが笑ってくれてたら。それは、オレにとってはなによりも嬉しくて。
「すきで。どうにかなりそうっ」
狂ってしまいそうだった。わかってる。選ばれなかったことも、これからずっと、見ていてくれるってことも。
けど……。デカい声で。叫びそうになる。もう、届くことのない想いを。返ってくることのない、オレと同じ想いを。
それは。誰にも聞かれたくなくて。必死に塞いで。ただただ涙と一緒に。オレを、狂わせてしまうほどの好きを、ほんの少しずつでいい。自分の中から、零そうとした。
「この……おばか」
「――……!!!!」
蹲っていると、ふわりとやさしく包みこまれた。顔を上げたそこには、幼馴染みが、何とも言えないような顔をしている。
「おばか。なに我慢してるの」
「きさ……」
「チカらしくない。いっつもすぐ泣くくせに」
「とーま……」
「お前さんにいい情報だ。この廊下は、まだだーれも眠ってない部屋ばっかりだ」
「……。っ。きく……」
だから泣けというのか? 叫べというのか? オレはまだ……っ。子どもなのかっ。
「チカはそういうスタンスでしょう?」
「は……?」
「でも、我慢できるようになったんだな。かっこいいじゃん」
「……。な。にが」
「しょうがねえから、今だけ姉ちゃんの胸、貸してやるよ。すぐ返せ」
「……。いら、ねえ……」
オレはもう、弱くない。オレはもう、強くなったんだ。あいつに、強くしてもらったんだっ。
「いいじゃん。あたしたちの前なんだし?」
「……。え」
「そうそう。今更格好付ける必要ねえよ」
「……っ」
「よく頑張ったな。でもつらい時は辛いって言え。……お前は、一人じゃねえんだから」
我慢をしてたわけじゃない。ただ、去って行く姿を見ているだけで。言葉にしてしまった。だけで。あいつへの想いが……溢れたんだっ。
「――――――……っ!!!!」
今だけ姉の肩口を借りて。
涙でそこを濡らしながら。溢れる想いを。クソメール送ってきた奴の文句を。声にならない叫びにした。



