すべての花へそして君へ①


「ひなた……。貸してくれる面積が、狭すぎるって……」


 たとえば肩とか。胸を貸せとは言わねーけど、せめて手の平にするとか。


「いらねーわっ。ばーか……」


 恐らく今のが最後だろう。そう思ったオレは、乱暴にスマホをポケットに戻した。


「なにがアタリだ。くそっ。ただの罰ゲームじゃねーか」


 口にした。思ったことを、どんどんどんどん。あの野郎からのクソみたいなメールの文句を。……文句、を。


「……っ。やっぱ、きっつ……」


 ――これは。文句じゃない。


「……っ、んっ」


 それを皮切りに、アオイへの想いがとめどなく溢れ始めた。


「――。……っ」


 さっき思ってたのもほんとだ。つらいけど嬉しい。あいつが笑ってくれてたら。それは、オレにとってはなによりも嬉しくて。


「すきで。どうにかなりそうっ」


 狂ってしまいそうだった。わかってる。選ばれなかったことも、これからずっと、見ていてくれるってことも。
 けど……。デカい声で。叫びそうになる。もう、届くことのない想いを。返ってくることのない、オレと同じ想いを。

 それは。誰にも聞かれたくなくて。必死に塞いで。ただただ涙と一緒に。オレを、狂わせてしまうほどの好きを、ほんの少しずつでいい。自分の中から、零そうとした。


「この……おばか」

「――……!!!!」


 蹲っていると、ふわりとやさしく包みこまれた。顔を上げたそこには、幼馴染みが、何とも言えないような顔をしている。


「おばか。なに我慢してるの」

「きさ……」

「チカらしくない。いっつもすぐ泣くくせに」

「とーま……」

「お前さんにいい情報だ。この廊下は、まだだーれも眠ってない部屋ばっかりだ」

「……。っ。きく……」


 だから泣けというのか? 叫べというのか? オレはまだ……っ。子どもなのかっ。


「チカはそういうスタンスでしょう?」

「は……?」

「でも、我慢できるようになったんだな。かっこいいじゃん」

「……。な。にが」

「しょうがねえから、今だけ姉ちゃんの胸、貸してやるよ。すぐ返せ」

「……。いら、ねえ……」


 オレはもう、弱くない。オレはもう、強くなったんだ。あいつに、強くしてもらったんだっ。


「いいじゃん。あたしたちの前なんだし?」

「……。え」

「そうそう。今更格好付ける必要ねえよ」

「……っ」

「よく頑張ったな。でもつらい時は辛いって言え。……お前は、一人じゃねえんだから」


 我慢をしてたわけじゃない。ただ、去って行く姿を見ているだけで。言葉にしてしまった。だけで。あいつへの想いが……溢れたんだっ。


「――――――……っ!!!!」


 今だけ姉の肩口を借りて。
 涙でそこを濡らしながら。溢れる想いを。クソメール送ってきた奴の文句を。声にならない叫びにした。