オウリと分かれるまでは、こんなやり取りができるなんて思ってもみなかった。だから今、目の前にアオイがいても、大丈夫そうだ。
「正直オレ、大抵の奴より強いんだよ」
「知ってるよ?」
「だから、初めお前に投げられた時は、正直ビビった」
「え?」
「あの時はまあ手加減したけど、なーんも抵抗できずに投げられて、……ちょっとクラッときた」
「え!? ごっ、ごめん」
オレの前でしゅんと小さくなるアオイの頭に、そっと手を伸ばす。……何が、と言われればわからなかったけど、それに一瞬、わずかな違和感を感じた。
「……違う。惹かれたっつってんだ」
「え。……引かれたのか」
「違えよ。惚れたかもって言ってんだ」
「え!? ……チカくんはドMだったんだね」
「おい。蔑んだ目やめろ」
「あい。ワカッタ」
「だからって高速瞬きすんな。怖えよ」
「おう。すまんすまん」
へへっと。笑うこいつを見てると、やっぱり抱き締めたくなる。変なとこもかわいいと思う辺り、オレもだいぶ毒されたらしい。
「……強い女って、かっけーって思ったんだよ」
「……?」
「女は守られるもんだって。弱い生きもんだから、絶対に手は出すなって。言われてたからさ」
「……うん」
「それがよ、思い切りぶっ飛ばされるしよ、何回も」
「お、おう」
だから。……だから、な。
「いなくなんねえかなって、思ったんだよ。……ちょっと」
「……ちかくん」
そんな寂しげな声が、聞きたかったわけじゃない。両手でアオイの頭をわしゃわしゃ撫で回す。
「わわわ……」
「はじめはな? そう思ったかも知んねえ。でも、ちゃんとオレは、好きだから」
「……! うんっ」
「だからまあ、あいつとデートしたい時は、オレとキサでも呼べ」
「えっ!?」
「目一杯めかし込んでやるよ。あとで、あいつがどんな反応したのか教えろ」
「……うんっ! お願いするー!」
――線引きをされる。でも、初めに比べたらなんてことなかった。
指の間には、好きな女のやわらかい髪。それももう、自分のものにはならないんだと。……そう、わかったけれど。
あと、ほんの少しだけでいい。ボサボサの髪のまま。嬉しそうに笑うこいつを独り占めにした、このひとコマを。
……オレの、諦めなかった褒美に、しておこう。



