次も感想だったらどうしようかな、って。そんなどうでもいいことを考えていたら、……少しだけ、ふっと体が後方へ突き飛ばされたような感覚がした。
「……! っ、ひなっ」
一瞬見えた街灯の明かりと離れていくぬくもりに、肩を押されたんだと理解した。何故か不思議と嫌ではなかったその手に、彼の顔を見上げようとしたんだけれど。
「そろそろ限界だから、オレも入れて」
そんな暇は無く、あっという間に再び視界はコートの暗闇に飲み込まれ、挙げ句。
「ちょっ、んっ……」
『ちゃんと相手にわかるように日本語しゃべって……!?』というわたしの言葉も、紡がれないまま彼に飲み込まれてしまった。
しかも、ガッチリ後頭部押さえられてるし。逃げられないじゃないか、これじゃ。……逃げようとは、思わないけど。
もうっ。一緒にコートの中に入りたかったんならそう言ってよね。……絶対違うだろうけど。そんなことを、考えてる余裕はあった。初めのうちは。
「はあ。はあ……」
けどコートのせいか、すぐに酸素がまわらなくなり酸欠に。いや、ギブだって言ってるのに、なかなか離してくれなかった彼が根本の原因ですけどね。
「……お願い、だからさ」
でも仕掛けてきたはずの彼の方が、ダメージが大きそうなのは……何故だ。
「……そういうこと、言うのやめて……」
「はあ……っ。えっ……?」
「いろいろ……相当……結構……かなり、頑張ってたけど……」
「……な、なにを――」
「何かする度にすげえかわいい反応するし、めっちゃ好き好き言ってくるし、しかもとどめにそんな……こと、言われて。平静で居られる奴がいたら連れて来いよー……!」
「えっ、ちょっ、うわあ……っ!」
よくわからない日本語を喋りながら、何故かお疲れらしい彼はわたしの肩に頭を置いてもたれ掛かってきたんだけど……。しばらくしゃがみっぱなしだったから、支えきれなくて尻餅をついてしまった。
「……ごめん」
「い、いえ。だ、大丈夫……?」
「大丈夫に見えるの、これが」
「……見えませぬ」
そう言ってきても全く動こうとしない辺り、相当酷いらしい。動かそうかとも思ったけど、ビクともしなかった。
(……え、っと……)
しかも、こうなった原因がわたしにあるときた。……取り敢えず『こっからわたしは、どうすればいいですかね』って、今一番聞きたい。
「……前方確認」
「……えっと?」
「誰かいますか」
「……い、いるっちゃいる」
「……」
「猫さんが」
「……はああ」
あれ。今吐いたのって、安心とか安堵とかよりも、絶対『呆れ』がたっぷりだったよね。いや、まあいいんですけど。



