姿はなかったけれど、隠れた柱の向こうから、やさしい声がした。
「……オウリは、いいのかよ」
「うん。ウサギさんの目は真っ赤っかだよ~」
「なんだそりゃ」
そっか。泣いたのか。だろうな。あいつだって相当だ。
「……見てて、くれんのかよ」
さっきまで、あんなにビビってたのに。今はどうして、ほっとしてる自分がいるんだろうか。
「もちろんっ。前からずっと言ってるよ」
「……そうだな」
……なんだろうな。多分、そう言ってくれたからかも知れないな。
「……見捨てないで、くれるんだな」
「……あったり前だ」
……そうか。オレが怖いのは、もしかしたら、また一人になることだったのかも知れない。もちろん、振られるのが怖いのもある。でも、あいつを選んでくれて、嬉しいのも……あるんだ。
なんかちょっと、軽くなった。
「なんだ。そっか。……だったらもう、十分だ」
「え?」
向こう側のあいつは、素っ頓狂な声を上げる。それが、なんかおかしかった。
「アオイ? まあ、まだ好きでいさせて」
「……ちかくん」
「ダメ?」
「……だめじゃ、ない」
「そっか。そりゃよかった」
困るだろうな。でもまあ、想うぐらいはさせてもらおう。……あの誓い。オレの想いと同じものは、向こうから届くことはなかったけれど。
「……ちゃんと、わたしは見てるから」
「……さんきゅ」
それでも、あいつのやさしさとあたたかさが、十分すぎるほど胸に届いた。
それが、嬉しくてちょっと気恥ずかしいのもあって。やっぱ好きだなって、思った。



