すべての花へそして君へ①


 姿はなかったけれど、隠れた柱の向こうから、やさしい声がした。


「……オウリは、いいのかよ」

「うん。ウサギさんの目は真っ赤っかだよ~」

「なんだそりゃ」


 そっか。泣いたのか。だろうな。あいつだって相当だ。


「……見てて、くれんのかよ」


 さっきまで、あんなにビビってたのに。今はどうして、ほっとしてる自分がいるんだろうか。


「もちろんっ。前からずっと言ってるよ」

「……そうだな」


 ……なんだろうな。多分、そう言ってくれたからかも知れないな。


「……見捨てないで、くれるんだな」

「……あったり前だ」


 ……そうか。オレが怖いのは、もしかしたら、また一人になることだったのかも知れない。もちろん、振られるのが怖いのもある。でも、あいつを選んでくれて、嬉しいのも……あるんだ。
 なんかちょっと、軽くなった。


「なんだ。そっか。……だったらもう、十分だ」

「え?」


 向こう側のあいつは、素っ頓狂な声を上げる。それが、なんかおかしかった。


「アオイ? まあ、まだ好きでいさせて」

「……ちかくん」

「ダメ?」

「……だめじゃ、ない」

「そっか。そりゃよかった」


 困るだろうな。でもまあ、想うぐらいはさせてもらおう。……あの誓い。オレの想いと同じものは、向こうから届くことはなかったけれど。


「……ちゃんと、わたしは見てるから」

「……さんきゅ」


 それでも、あいつのやさしさとあたたかさが、十分すぎるほど胸に届いた。
 それが、嬉しくてちょっと気恥ずかしいのもあって。やっぱ好きだなって、思った。