すべての花へそして君へ①


「おれはっ!! そんなやさしすぎるひーくんが、すっごいムカつくって言ってんのっ!!」


 言ったじゃん。悪口じゃないんだって。ただおれは、羨ましかっただけなんだ。
 そんなやさしさ、おれにはない。おれには、あーちゃんが大好きでも、そんなことはできな――


『やさしかったら普通、友達パシるようなことしないと思うけど』

「……え?」

『そうじゃない? ていうかオレだったら絶対そいつのこと、やさしいとか思わないんだけど』

「え??」

『それなのにそう思うオウリって、……マゾだったんだ』

「ええ!?」


 あれ? え?? そう……なの?
 いやでも、ひーくんはやさしいと思って……あれ。ひーくんのどこがやさしいんだっけ。


(あーちゃんに対しては、そりゃもうわっかり難いけどすっごいやさしくて、やさしくてやさしくて……)

『……そんな風に思うオウリの方が、オレよりだいぶやさしいんじゃない?』

「うん。そうだね」

『即答かよ……』


 まあ。そんなことを言ってくれるのが、ひーくんのいいところなんだけど。


「……そんなひーくんだから、あーちゃんは好きになったんだよね……」

『ん? なに。なんか言った?』


 ちゃんとわかってるよ。ひーくんのやさしさなんて、あーちゃんに比べたらすっごいわかりにくいけど。


「ひーくん」

『……なに』

「やっぱりおれ、あーちゃん好きだ」

『……うん』

「だから今からちゅーしてくる!」

『……は。はああ!? ふざけんな!! 誰のもんに手出そうとして――』

「それじゃあね~」

『っ、ちょ、オウリっ!』


 それに、ひーくんなんだかんだで子どもだし。よく考えたら、多分おれの方が中身大人だし。……うん。そう思うことにしとこーっと。


(今度、あーちゃんにひーくんの好きなとこ、聞いてみようかな)


 あ。でも、おれも言いたいから、言い合いっこだ。それはそれで面白そうっ!

 ……ふきふき。


「……あ、かね?」

「言いたかったこと、言えた?」


 あれ。なんで今、おれは泣いたんだろう。
 ……嬉しかった、のかな。言いたいこと、言えたから。言いたい相手に、言えたから。ほっと、……したのかな。ひーくん。怒んなかったから。


「……。い、えた」

「そっか。よかったね?」

「うんっ。ひーくんに言えた! よかったっ」

「うん。……よかったね」

「っ、うんっ」


 あーちゃんももちろん大好きだけど、おれは、ひーくんだって大好きだから。


「もう。ほんとひーくんって面倒臭いよね~」

「……おうり。それは陰口じゃない?」

「褒め言葉だよ~」


 しょうがないから、あーちゃんへのちゅーはやめておいてあげよう。