「おれはっ!! そんなやさしすぎるひーくんが、すっごいムカつくって言ってんのっ!!」
言ったじゃん。悪口じゃないんだって。ただおれは、羨ましかっただけなんだ。
そんなやさしさ、おれにはない。おれには、あーちゃんが大好きでも、そんなことはできな――
『やさしかったら普通、友達パシるようなことしないと思うけど』
「……え?」
『そうじゃない? ていうかオレだったら絶対そいつのこと、やさしいとか思わないんだけど』
「え??」
『それなのにそう思うオウリって、……マゾだったんだ』
「ええ!?」
あれ? え?? そう……なの?
いやでも、ひーくんはやさしいと思って……あれ。ひーくんのどこがやさしいんだっけ。
(あーちゃんに対しては、そりゃもうわっかり難いけどすっごいやさしくて、やさしくてやさしくて……)
『……そんな風に思うオウリの方が、オレよりだいぶやさしいんじゃない?』
「うん。そうだね」
『即答かよ……』
まあ。そんなことを言ってくれるのが、ひーくんのいいところなんだけど。
「……そんなひーくんだから、あーちゃんは好きになったんだよね……」
『ん? なに。なんか言った?』
ちゃんとわかってるよ。ひーくんのやさしさなんて、あーちゃんに比べたらすっごいわかりにくいけど。
「ひーくん」
『……なに』
「やっぱりおれ、あーちゃん好きだ」
『……うん』
「だから今からちゅーしてくる!」
『……は。はああ!? ふざけんな!! 誰のもんに手出そうとして――』
「それじゃあね~」
『っ、ちょ、オウリっ!』
それに、ひーくんなんだかんだで子どもだし。よく考えたら、多分おれの方が中身大人だし。……うん。そう思うことにしとこーっと。
(今度、あーちゃんにひーくんの好きなとこ、聞いてみようかな)
あ。でも、おれも言いたいから、言い合いっこだ。それはそれで面白そうっ!
……ふきふき。
「……あ、かね?」
「言いたかったこと、言えた?」
あれ。なんで今、おれは泣いたんだろう。
……嬉しかった、のかな。言いたいこと、言えたから。言いたい相手に、言えたから。ほっと、……したのかな。ひーくん。怒んなかったから。
「……。い、えた」
「そっか。よかったね?」
「うんっ。ひーくんに言えた! よかったっ」
「うん。……よかったね」
「っ、うんっ」
あーちゃんももちろん大好きだけど、おれは、ひーくんだって大好きだから。
「もう。ほんとひーくんって面倒臭いよね~」
「……おうり。それは陰口じゃない?」
「褒め言葉だよ~」
しょうがないから、あーちゃんへのちゅーはやめておいてあげよう。



