すべての花へそして君へ①


 それからあーちゃんは、「次はネコさんの捕獲に行ってくるね!」と、笑顔を残して走ってきた廊下を戻っていった。そんな彼女の背中を、見えなくなるまでおれは見つめていた。


「じゃあ~~ねえ~~!」


 曲がり角に差し掛かり、もう一度振り返ってきてくれた彼女は、両手で大きくこちらへ手を振った。それに同じように、両手で体全体を使って。おれも、彼女に振り返した。
 そして、彼女の姿が視界から消えた時。


「……。あーぢゃん」


 限界だった涙の膜が、再びおれの視界を塞いだ。
 声は、もう出せなかった。出しちゃったら、きっとあーちゃんがまた戻ってきてくれるから。戻ってきて欲しい気持ちもあったけど、泣いてばっかりもいられない。
 あーちゃんは、おれのために選んでくれた言葉で、おれのことを前に進ませようとしてくれたんだ。……止まったままは、あーちゃんが悲しんじゃうじゃないか。


「……。うっ。ぅぅ……っ」


 でも、解ってはいても、やっぱりまだだめだ。だって。だって。あーちゃんが好きなんだもんっ。


「ははっ。ぐちょぐちょだ……」


 彼女の手にも、たくさんたくさん落としてしまった。そんな自分に、呆れてものも言えない。


「……。目。痛い」


 顔でも洗ってこようか。……でも、ちょっと動けそうにないな。立ってるのだって、やっとなんだし。


「はい。おうり」

「え?」


 俯いていた顔の前には、ちょっとくしゃくしゃのハンカチ。


「……あ、かね……」

「うん。ポケットに入れたままだったから、ちょっと皺くちゃだけど」

「……。あかねっ」

「……うん。さっきおれ、これ使ったけど。それでもよかったらどーぞ?」

「あ゛か゛ね゛……っ!!!!」

「何も聞かないよ。言いたかったら聞いてあげるけど……言いたいのは、おれにじゃないんでしょ?」


 引ったくるようにハンカチを奪い取り、ゴシゴシと目から頬から首の方まで垂れた雫を拭き取っていく。