それからあーちゃんは、「次はネコさんの捕獲に行ってくるね!」と、笑顔を残して走ってきた廊下を戻っていった。そんな彼女の背中を、見えなくなるまでおれは見つめていた。
「じゃあ~~ねえ~~!」
曲がり角に差し掛かり、もう一度振り返ってきてくれた彼女は、両手で大きくこちらへ手を振った。それに同じように、両手で体全体を使って。おれも、彼女に振り返した。
そして、彼女の姿が視界から消えた時。
「……。あーぢゃん」
限界だった涙の膜が、再びおれの視界を塞いだ。
声は、もう出せなかった。出しちゃったら、きっとあーちゃんがまた戻ってきてくれるから。戻ってきて欲しい気持ちもあったけど、泣いてばっかりもいられない。
あーちゃんは、おれのために選んでくれた言葉で、おれのことを前に進ませようとしてくれたんだ。……止まったままは、あーちゃんが悲しんじゃうじゃないか。
「……。うっ。ぅぅ……っ」
でも、解ってはいても、やっぱりまだだめだ。だって。だって。あーちゃんが好きなんだもんっ。
「ははっ。ぐちょぐちょだ……」
彼女の手にも、たくさんたくさん落としてしまった。そんな自分に、呆れてものも言えない。
「……。目。痛い」
顔でも洗ってこようか。……でも、ちょっと動けそうにないな。立ってるのだって、やっとなんだし。
「はい。おうり」
「え?」
俯いていた顔の前には、ちょっとくしゃくしゃのハンカチ。
「……あ、かね……」
「うん。ポケットに入れたままだったから、ちょっと皺くちゃだけど」
「……。あかねっ」
「……うん。さっきおれ、これ使ったけど。それでもよかったらどーぞ?」
「あ゛か゛ね゛……っ!!!!」
「何も聞かないよ。言いたかったら聞いてあげるけど……言いたいのは、おれにじゃないんでしょ?」
引ったくるようにハンカチを奪い取り、ゴシゴシと目から頬から首の方まで垂れた雫を拭き取っていく。



