「あーちゃん。いっちゃ。やだよ……」
「……おうりくん」
声は、込み上げてくる涙のせいで、すぐにくぐもった。
「おれが今、こうやって想いを口にできるのだって。あーちゃんのおかげなのに……」
こんなことを言ったって、あーちゃんを困らせるだけなのに。顔を上げたところで、そんな困った表情の彼女も、もう涙の膜のせいで見えないだろう。
「おかあさん。かえってきたのだって。おとうさんも。いるのだって……」
「……。うん」
「ぜんぶ。ぜんぶっ。あーちゃんのおかげなのにっ」
「……おうりくん」
ぼとり。ぼとり。掴んだ彼女の手に、大粒の雫が落ちていく。鼻水が出る。ズズッて啜る。鼻の奥が痛い。また涙が上がってきたんだ。
「……。っ、でもっ」
それでも、涙声を必死に紡ぐ。
「でもっ。そんなことよりも。言いたいこと。あったんだ」
「……。うん。教えて?」
やさしい声にぎゅっと目を瞑ると、自分でも驚くぐらい大粒の涙が、ボトッと落ちた。
「おか。えりっ。あーちゃん」
「……おうりくん」
「寂しかったんだ。まだ。あーちゃんが学校に来てた時もずっと」
彼女が長い休みに入るんだと知った時、心が空っぽになった。空っぽの心に、ひゅーひゅーと冷たい風がいつも吹き抜けていて……。
「お休み入るのも急だしっ。かと思ったら。帰ってくるつもり。なかったとか」
「……それは違うよ」
「でも。何も言ってくれなかった。教えてくれなかった。嫌うわけないのに。なんで。なんでわかってくれなかったの」
「……おうりくん」
違う。言いたかったのはこれじゃない。もっと違う……別のこと。
「おれは。治してあげられたのかな」
「え?」
触れた時、彼女の熱を感じてほっとした。まだ冷たかったらと思うと、血の気が引く。
「あったかく。なったね。あーちゃん」
「おうり、くん……」
彼女を責めたかったわけじゃない。ただ……言いたかったんだ。おかえりと。……それから。
「元気になって。よかったっ!」
「……。っ、ありがと! ……ただいま。おうりくんっ」
そう。その笑顔。こうして、また目の前で。彼女の笑顔が見られて嬉しいってこと。それが、何よりも言いたかったことだ。
おれがあーちゃんに会ったのはあの変な技いっぱい言ってた時だから、正直生徒会室で顔合わせする時は一瞬、同じ人だと思わなかった。



