すべての花へそして君へ①


「あーちゃん。いっちゃ。やだよ……」

「……おうりくん」


 声は、込み上げてくる涙のせいで、すぐにくぐもった。


「おれが今、こうやって想いを口にできるのだって。あーちゃんのおかげなのに……」


 こんなことを言ったって、あーちゃんを困らせるだけなのに。顔を上げたところで、そんな困った表情の彼女も、もう涙の膜のせいで見えないだろう。


「おかあさん。かえってきたのだって。おとうさんも。いるのだって……」

「……。うん」

「ぜんぶ。ぜんぶっ。あーちゃんのおかげなのにっ」

「……おうりくん」


 ぼとり。ぼとり。掴んだ彼女の手に、大粒の雫が落ちていく。鼻水が出る。ズズッて啜る。鼻の奥が痛い。また涙が上がってきたんだ。


「……。っ、でもっ」


 それでも、涙声を必死に紡ぐ。


「でもっ。そんなことよりも。言いたいこと。あったんだ」

「……。うん。教えて?」


 やさしい声にぎゅっと目を瞑ると、自分でも驚くぐらい大粒の涙が、ボトッと落ちた。


「おか。えりっ。あーちゃん」

「……おうりくん」

「寂しかったんだ。まだ。あーちゃんが学校に来てた時もずっと」


 彼女が長い休みに入るんだと知った時、心が空っぽになった。空っぽの心に、ひゅーひゅーと冷たい風がいつも吹き抜けていて……。


「お休み入るのも急だしっ。かと思ったら。帰ってくるつもり。なかったとか」

「……それは違うよ」

「でも。何も言ってくれなかった。教えてくれなかった。嫌うわけないのに。なんで。なんでわかってくれなかったの」

「……おうりくん」


 違う。言いたかったのはこれじゃない。もっと違う……別のこと。


「おれは。治してあげられたのかな」

「え?」


 触れた時、彼女の熱を感じてほっとした。まだ冷たかったらと思うと、血の気が引く。


「あったかく。なったね。あーちゃん」

「おうり、くん……」


 彼女を責めたかったわけじゃない。ただ……言いたかったんだ。おかえりと。……それから。


「元気になって。よかったっ!」

「……。っ、ありがと! ……ただいま。おうりくんっ」


 そう。その笑顔。こうして、また目の前で。彼女の笑顔が見られて嬉しいってこと。それが、何よりも言いたかったことだ。
 おれがあーちゃんに会ったのはあの変な技いっぱい言ってた時だから、正直生徒会室で顔合わせする時は一瞬、同じ人だと思わなかった。