「それで? 三人に何言われてたの?」
「バッチリ見てたんだね」
楽しそうな雰囲気だったからそりゃ目に入るよ。今じゃもう夜遅いから、会場にいる人数は減ってきているし、余計に。
「……さっきのは、オレが欲求不満の最低男だったから、謝ってたんだよ」
「え? い、意味がわからないんだけど……」
どうしてそんなことになったのか、本当に少しだけだったけど、軽く説明をしてくれた。
「……そう思うことって普通じゃないの? ていうか、ほんとにひなくんあおいちゃんが好きなんだね」
「うるさいっ」
あらま。完全に拗ねちゃったよ。こういう彼って全然見たことないから、ほんと新鮮。
「でも、たとえ奥底に眠るひなくんの欲望が滲み出てた行動だとしても、あおいちゃんのことを一番に考えてたんだし、好きならそれは当たり前の行動でしょ? 早く自分の腕の中に収めたい……って気持ちもあったってわかったけど、やっぱりあおいちゃんを優先させてる。……そういうのはね、ひなくん。ヘタレって言うんだよ」
「え。違うよね。それって絶対違うよね」
「いいやひなくん。そういう行動自体はヘタレじゃないけど、そのあとあかねくんに教えてもらって気が付いてから、ぐじぐじと男らしくもなく悩んだことがヘタレだって言うんだ」
「……もう悩んでないし」
そっぽを向く彼は、……一体いつまで悩んでいたのだろうかと、ちょっと心配になった。今三人に弄られていたのは、そんな申し訳ないことをしたお詫びを入れに行ったからという。……きちんとしてるところは、あおいちゃんによく似てるなって思った。
(でも、ひなくんが頼んだことって……)
本当に軽くだったから、何を頼んだのかまではよくはわからなかった。ただ、欲求不満の大爆発により、みんなに最低なことをしてしまったと、彼はどうやら思っているらしい。……思いつくのは、一つしかないけど。
(……大丈夫かな、かなくん)
彼女の想いは、もうわかっているようなものだ。聞きたく、ないんだろうな……。でも、彼女も彼と同じくそういうことはきちんとする子だ。それが、とってもいいところなんだから。
「三人だけに頼んだの?」
「……あと二人」
よっぽどお疲れのようだけれど、それでも行くらしい。「行ってくる」と、彼は重い体をなんとか動かしていた。
(ありゃありゃ。あれはあおいちゃんにしか治せそうにないですなあ)
そんな彼の背中を見つめながら小さく手を振っていると、何を思ったのか、彼はこちらを振り返ってきた。
「ユズ」
「ん? ……なに? ひなくん」
ちょっと申し訳なさそうな顔をしている彼は、一体あたしに何を言おうとしてるのか。



