すべての花へそして君へ①


 彼は、あかねくんと皇くんと、……き、桐生先輩と話をしてた。あんな先輩を見てから、ちょっと怖くて近寄れない。


(……何、話してるのかな?)


 でも、それもどうやら終わったようだ。
 ひなくんは、桐生先輩に何故か指を差されて大笑いされ、皇くんには憐れみの目で頭を撫でられ、あかねくんには、……ぽかぽか背中を叩かれてた。
 そんなことをされても彼は、何とも言えないような顔をしていて。……まあ、嬉し恥ずかし、といった感じだ。ただただ文句も言わずにされるがまま。
 ……でも、あったかかった。みんな、あたたかい人たちだなって思った。彼らのまわりは、やさしさで包まれていたから。


「ひ~なくんっ。ドMへの道が開けたんだね! おめでとー!」

「え。全然めでたくないよそれ。オレは生まれた時からサディストだよ」

「え。そうなの?」

「そうそう。Mは嫌だね。絶対にいや――」

「積極的なあおいちゃんとかどうよ」


 ………………………………。


「まあ、時と場合によるよね」


 なっがい葛藤だな。でもまあ、あおいちゃんにならどうせ何されたって喜んでしまうんでしょう! かわいい弟くんめっ!


「ていうか、こんな遅くまで何してるのユズ。こんな遅くまで起きてたら、お肌に悪いんじゃないの?」

「え? そこまであたし美意識高くないから。きさちゃんは異常だから」

「そうだね。今頃は美意識高め中か、イチャつき中だね」

「……そうだね」


 あんなにベタベタして……いつかバレたりしないのだろうかと心配だったけど。まあその辺はちゃんとしてるんだろう。いつもだらけてそうに見えて、そういう時だけきちんとしてる先生みたいだ。……それもそれでどうなのか。
 あたしがきさちゃんの彼氏のことを知ってるのは、引っ越すまではよく会ってるのを見かけてたから。どうやら教師志望らしい彼は、桜の教師としてあたしたちが高校になる年に赴任するんだと聞いた。もちろんその情報元は目の前の彼だけど。時々、そういうみんなの情報を彼はくれていたから。

 前にきさちゃんが、どうしてあたしがそんなことを知ってるのか突っ込んでこなかったのは、きっと恥ずかしくなってそっちに頭が働かなかったからだと思う。……彼女も、幸せそうで、本当によかった。