すべての花へそして君へ①


 また慌てて口を押さえるけど、彼女はきょとんとしていた。どうやら漏れてたわけではなかったらしい。


「わたしは、……やさしいやさしい、とってもやさしいカナデくんが、大好きだよ!」

「……!! あおい。ちゃん……っ」


 どうしてそんなことを言ったのか。そして今から、何を言おうとしているのか。……すぐに、わかってしまった。


「こんなわたしを、好きになってくれてありがとう。こんなわたしだとわかっても、……今でも、好きでいてくれてありがとう。本当にね? 本当にやさしかったら、こんなこと、今言わないの。言おうとしないと思うんだ。だからわたしは、強くない。強く、……なりたいね」

「うん。……そうだね」


 こんな……なんて。そんなの、どこに嫌う要素があったろう。好きでいるに決まってるじゃないか。アオイちゃんは、俺を掬い上げてくれた愛しい人なんだから。


「まだ……。好きでいていい? アオイちゃんのこと……。好きでも。許してくれる?」

「……そんな嬉しいこと言ってくれるのに、わたしが許さないとでも思うの?」


 嬉しい、のか。……そっか。それは……。俺も嬉しいな。


「うんっ。あわよくばを狙ってるからね?」

「もう……。カナデくんってば。こんなわたしでよければ。いつまででも。どうぞ?」


 ちょっと泣きそうなのかなって思った。でも、泣かなかったから、ちょっと悔しかったな。
 少しだけ熱を持った頬に手を伸ばす。彼女はそれを、拒まなかった。……でもきっと、次からは拒むんだろう。ただ、何をするでもなく。小さく笑って、伸ばした俺の手に、頬の熱を移していた。


(俺は、……まあもちろんだけど)


 こうしているアオイちゃんも今、きっとつらいんだろうな。