「ごめん。アオイちゃん」
「……かなでくん」
絶対に背負わせない。だって、そんなことをしてしまったら……彼女がまた、苦しんでしまう。
彼女の手をそっと取り、ぎゅっと力を入れる。
「それだけはできない。したくない。アオイちゃんだけは、……守りたい」
「……そっか」
……あ。もしかして君は、そこまでわかってたのかな。
「……最初で、最後にする。だから……ごめん。一回だけ、謝っても……いい?」
君がそう言えば……俺が、もう背負えないことを。
「アオイちゃん。やっぱり俺は、アオイちゃんが好きだから。……だから、あの時のことで、君を傷つけてしまったことが。悔しいんだ」
彼女の手を引き寄せ、その手の平に額をつける。……ああ。もう、冷たくないんだね。
「悔しい。どうしてあの時、もっと二人を守れるだけの力が、俺にはなかったんだろうって。きっと、ずっと思うと思う。これから……。ずっと」
でも、『強くなれ』と言われた。カエデさんが言ったのは、糧にしろと言うことだ。
「ごめん。ごめんね? あの時、ユズちゃんと先生、守れなかった。怖くて、親父や組のみんなと、話すのを拒んだ。……アオイちゃんが苦しんでるのに、気が付かなかった。アオイちゃんを、助けるのが遅くなってしまった。……本当に、ごめんなさい。ごめん、なさい」
包み込んだ手からは、何を思ってるのかまではわからない。ただ、……本当に少しだけ。震えている気がした。
「いいよ? やっと謝らせてあげられた。よかったー!」
そんなことを言うもんだから、また、治まっていた涙が出てきそうだった。
「……。おかえりっ。アオイちゃんっ」
「……うん。ただいま、カナデくん!」
なんでそんなやさしい言葉を掛けてくれるんだ。なんで君はそんなにも。強いんだ。……ほんと、羨ましいな。
「カナデくんは一緒に背負わせてくれないんだね~。それは残念」
「……だめ。俺ももう……。朝になったら何も言わない」
「……カエデさんと一緒だっ」
「……うん。約束した、んだ」
だから……いつか、お邪魔しよう。
今度は、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうを伝えるために。
「でも……。でもね、アオイちゃん。こう言うのは卑怯だって思うんだ。アオイちゃんの気持ちもわかってるのに」
「カナデくん」
「まだ。やっぱり少しだけ、いろんな気持ち、整理できないからさ。その時はまた、謝りに行ってもいい?」
「……うんっ。もちろんだよ?」
俺が、きちんと彼女を見るようになったのは、叱ってくれた時だ。そして、……俺の気持ちを軽くしてくれた時。
思ったんだ。この子ならきっと、あの時二人を守ってあげられたんじゃないかなって。強い。ほんとに強いよ、アオイちゃん。
「カナデくん? わたしは、強くなんてないよ」
「ええっ?」



