もう、白状しよう。だってもうバレてるし。もう降参だ。黙ってたって、彼女はここから立ち去ろうとはしないんだから。
「ここに。いたのは。カエデさんに。謝ってた。から」
「……うん。毎日謝ってくるって、カエデさん言ってたよ?」
「はは……。そっかー」
カエデさんも人が悪い。そういうことを、黙っておきたい人に言わないで欲しいよ。
「アオイちゃんを、責めてるわけじゃない。俺は。俺自身を。責めてたんだ」
彼女は何も言わなかった。ただずっと、やさしい顔して俺の話を聞いてた。
「あの時はあの時で。ちゃんと。向き合えたと。思う。ユズちゃんも。前に進めて。嬉し、くて」
きっと、カエデさんも気付いてた。俺はずっと、彼に最低なことをしてた。
「ちゃんと。謝りたかったんだ。だから、カエデさんに。謝ってた。でも。わかってるんだ。気付いてたんだ」
あの事件に、君が関わってるって知って、あの時以上に、俺は責任を感じた。
「アオイちゃんはっ……。謝るな、って。言うからっ」
だから、何も言わないでいてくれるカエデさんを利用した。カエデさんにももちろん謝っていたけれど。謝りたいのは、目の前の彼女もだった。今。愛しい彼女を。俺の、弱さで傷つけてしまったことが。許せないんだ。
「カエデさん。もう。謝るなって。どう。したらいいの。俺は。もう。どうしたら。いいか。わ。わから。なくて」
どうしたら。どうしたらいいの。おかしくなりそうだった。謝っておかないと。壊れそうだった。
彼女は悪くない。全然悪くない。組の奴等だって。みんな悪くない。悪いのは全部。俺だから。自分の部屋に引き籠もって。自分だけ守ってた。俺だけ、なんだから。
「はーい。落ち着いて~、カナデくん」
「いひゃい」
おかしくなる前に、彼女がそうして戻してくれた。……ほんと、敵わない。
「な~にを一人で悩んでるの! 悩むならわたしも一緒に悩ませなさいっ」
「……え」
「誰がいつ『謝るな』なんて言ったの? そりゃ悪くないのに謝るのはおかしいけど、流石にこんなになってるのに謝らせないほど、わたしは酷い奴じゃないと思ってたんだけど?」
「……あおい。ひゃん」
強い意志を持った瞳が、俺にそう語りかけてくる。でも、それもすぐにやさしい色へと戻っていった。
「ごめんね。カナデくんをこんなにさせてたのに、気付いてあげられなかった。……わたしは、最低だね」
「……! ひょんなことないっ!!」
頬を抓んでいる手を退けようとしたけれど。余計強く抓まれて引き千切られそうだった。
「いひゃい。いひゃいよっ」
「あはっ。すっごい変な顔~」
今度は、まるで子どもみたいに笑ってた。でもやっぱり、やさしさだけは十分伝わってきた。
「最低だよ、わたしは。大好きなみんなのことを信用しないで、勝手にいなくなろうとして。帰ってきても、わたしは泣かせてばっかりだ。ほんと、気付いてあげられなくてごめんね」
「あおい。ひゃん……?」
どういうことだろう。どうして、目の前の彼女は笑っているのに。……泣きそうなんだろう。
「教えてくれない? カナデくん。わたしも一緒に背負わせてくれない? 君が感じている責任。だってそれは、わたしのためを思ってのことでしょう? それともわたしの勘違い、かな」
きっと、そう言っても過言じゃないだろう。だって、あの時はあの時で、もう気持ちに整理ができてたんだ。でも、本当のことを知ってからまた、責任に押し潰されそうだった。
……やさしい彼女はそう言うんだろう。何となくわかってた。でも、だから決めてたことがあるんだ。することができたなら……と。



