彼女は、目元に溜まっていた俺の涙を拭ってくれたあと、小さく笑って温室を出て行った。……いっちゃった。
「あーあ。これはもう、完敗かな……」
温室にあったソファーを借りて、少し横になる。
「だよねー。だって九条くんよりも面倒臭くて最低で、やさしすぎてかっこよくて、あおいさんのことを誰よりも見てるストーカーなんて、俺知らないもん」
そんな俺を、温室にいた、たくさんの綺麗な花たちが見守っていてくれた。
「あー。さっきあれだけ泣いたからかな? そんなにしんどくない」
……いいや。きっと、あおいさんのおかげだろう。
「……わからないなりに出したあなたの答えは、誰よりも何よりも、相手のことを結局は考えて出した答え、なんですね」
だから今、俺はそんなにはつらくない。……まあ、やっぱり彼女のことを思うとちょっと苦しくて、ちょっと涙が出ちゃうけど。
「……やっぱすごいな、あおいさん。俺、あおいさんよりも素敵な人っていないと思うんだよね。ていうか基準があおいさんだからさ、他の人って目に入らないんだよね」
……どうしよ。そうなったら俺、ずっと独り身……?
「……いやいや。勝てっこないでしょ、九条くんに」
でも、このまま負けたままなのは、ちょっと悔しい。
「足蹴にしたしね。結局手品教えてくれてないしね。ちょっとくらい意地悪……いや、意地悪じゃないか。ま、取り敢えず感想だけいただこうかな……っと!」
写真を選んで文章をさささ~っと打つ。
「件名は、あれね。〈惚気中〉内容は……〈ざまあみろ〉かな?」
暗いからわからないとでも思ってのだろうか。いやいや、それでもわかるくらい真っ赤だったから。
そんな彼女にバレないように、暗かったけどこっそり撮ってみたのだー!
送ったら即刻返信が来た。
「ん? なになに? ……《今すぐ消せ?》自分は大事に保存して、どうせパソコンにも送ってるくせにねー」
そんな文句を言いつつ、彼女のそんな写メを見て、にやけてる彼の姿が容易に想像できた。
「……隠し撮りしてたってこと。言ったら怒るかな、あおいさん」
でもまあしょうがないから、彼氏候補さんのためにデータは消しておいてあげましょう。
「さてと……っと。カオルに慰めてもらいにでも行こうかなー」
重たいと思っていた腰が、すんなりと上がる。それにちょっと苦笑いしながら俺は、やさしい温室を後にした。



