(……とは、言ったものの)
言いたいことが、全然まとまらない。ヒナタくんが、待ってくれてるのに。
前までは、沈黙でも言葉を探さなかった。無音だって、居心地がよかったのに。
何故か今は、必至に言葉を探した。言いたいことじゃない別の言葉。この場をなんとか繋げようとした。……他に、しないといけないことがあるのに。
(何を、やってるんだ。わたしは……っ)
拳をギリ……っと握った。そんな大馬鹿者の自分に、無性に腹が立った。
「……はあ」
何も言わないから、痺れを切らされたかと思った。今はそれが、一番怖かったけど。
「――!」
「握るとこ。そこじゃないでしょ」
包み込んだのは大きな手。耳に届いたのはやさしい音。
「いいよ。ゆっくりで」
固く握ったわたしの手を、言葉の通りゆっくりと解いて。焦りで冷たくなった指先に、熱を分けてくれるように。
「だから……今、教えて?」
再び……コツンと。そっと頭を寄せて。
(ヒナタくん……っ)
そのやさしさだけで。温かい熱だけで。好きって気持ちだけで。……こんなことで、バカみたいに涙が込み上げた。
「あの……っ。あの、ね……?」
「ん?」
続きを仄かに促す音。たったそれだけなのに、焦らなくていいよって言われてるみたい。
「……あ、の……」
「……ん」
ふっと、頭の重みが消えた。その代わりにやってきたのは、彼の大きな手。今まで、いろんな人に頭を撫でられたことがあるけれど……。
こんなにぎこちなくて、不器用で、あったかくて。それでいて、こんなにも愛しいと思ったことは、一度もない。もう……きっと、一生ない。
「……あの」
「ん?」
「……そっち、行ってもいい?」
「え? そっちってどっち――……っ!」
彼の返事は待たなかった。ううん違う。待てなかったんだ。
別に、遠い距離なわけじゃなかった。手の届くところにいてくれていたから。……でも、その距離さえも、今は要らなかった。



