すべての花へそして君へ①


(……とは、言ったものの)


 言いたいことが、全然まとまらない。ヒナタくんが、待ってくれてるのに。

 前までは、沈黙でも言葉を探さなかった。無音だって、居心地がよかったのに。
 何故か今は、必至に言葉を探した。言いたいことじゃない別の言葉。この場をなんとか繋げようとした。……他に、しないといけないことがあるのに。


(何を、やってるんだ。わたしは……っ)


 拳をギリ……っと握った。そんな大馬鹿者の自分に、無性に腹が立った。


「……はあ」


 何も言わないから、痺れを切らされたかと思った。今はそれが、一番怖かったけど。


「――!」

「握るとこ。そこじゃないでしょ」


 包み込んだのは大きな手。耳に届いたのはやさしい音。


「いいよ。ゆっくりで」


 固く握ったわたしの手を、言葉の通りゆっくりと解いて。焦りで冷たくなった指先に、熱を分けてくれるように。


「だから……今、教えて?」


 再び……コツンと。そっと頭を寄せて。


(ヒナタくん……っ)


 そのやさしさだけで。温かい熱だけで。好きって気持ちだけで。……こんなことで、バカみたいに涙が込み上げた。


「あの……っ。あの、ね……?」

「ん?」


 続きを仄かに促す音。たったそれだけなのに、焦らなくていいよって言われてるみたい。


「……あ、の……」

「……ん」


 ふっと、頭の重みが消えた。その代わりにやってきたのは、彼の大きな手。今まで、いろんな人に頭を撫でられたことがあるけれど……。
 こんなにぎこちなくて、不器用で、あったかくて。それでいて、こんなにも愛しいと思ったことは、一度もない。もう……きっと、一生ない。


「……あの」

「ん?」

「……そっち、行ってもいい?」

「え? そっちってどっち――……っ!」


 彼の返事は待たなかった。ううん違う。待てなかったんだ。
 別に、遠い距離なわけじゃなかった。手の届くところにいてくれていたから。……でも、その距離さえも、今は要らなかった。