すべての花へそして君へ①


「アイくん! 歯、食い縛ってっ!!!!」

「え――っ、!!!!」


 飛んできた拳を、……つい条件反射で受け止めてしまった。


「あああああ!!!! 俺はっ。俺はなんてことをっ……!!!!」

「い、いや、理解してもらえて嬉しいんだけどさ、その前にわたしの突っ込みを入れさせてよ……」


 きっと『なんで受け止めるのっ!!』って言いたかったんだと思う。でもその前に、思わず叫んでしまった。


「でも。不意打ちはダメですって。そういう訓練してきたんですからあぁ」

「え。ご、ごめんなさい……?」

「あおいさんもう一回! お願いします!!」

「ええー……。アイくん強いから、少々じゃダメじゃん」

「お願いしますううぅ」

「はいはい」


 ……ああ。これで少しは楽になれる。これで……。やっと俺は。


「目を瞑って。歯、食い縛って」

「はいっ!」


 ごめんなさい、あおいさん。やさしいあなたをこんな風に利用して。
 大きく彼女は腕を上げた。それを最後に、俺はゆっくり瞳を閉じる。

 たくさんたくさん謝りたいんだ。酷いことをたくさんしてきたこともそう。キスした……のは、ちょっと許してはもらいたいけど。でも幸せだった。あの瞬間。ほんの一時でも、あなたの横を歩けたことが。

 ……でも、してきたことは最低だ。自分がもっと強かったら。何度思ったか。自分がもっと頭が良ければ。何度も何度も思った。

 言われてきたのは『使えない』。それはもう、八つ当たりだったんだってこともわかってる。それでも、もっと、俺があおいさんみたいだったら。あなたをこんな目に遭わせることはなかっただろう。あなたの名前も、見つけ出す努力をしていただろう。

 結局は自分に勇気がなかったんだ。あの時もそう。花畑でも。結局は、彼に俺自身も救われた。ほんと。あおいさんが惚れるのもわかるよ。
 さっきはあんなことを言ったけど……誰かのために動ける彼は。本当に、誰よりもかっこいい――――


「……。え」


 来た衝撃は、衝撃と呼べるものではなくて。ふわりとした、やさしい風のようなものだった。


「……。あおい、さん」


 目の前の彼女は、ただやわらかく笑っていて。そっとやさしく、俺の両頬を包み込んでいた。