「アイくん! 歯、食い縛ってっ!!!!」
「え――っ、!!!!」
飛んできた拳を、……つい条件反射で受け止めてしまった。
「あああああ!!!! 俺はっ。俺はなんてことをっ……!!!!」
「い、いや、理解してもらえて嬉しいんだけどさ、その前にわたしの突っ込みを入れさせてよ……」
きっと『なんで受け止めるのっ!!』って言いたかったんだと思う。でもその前に、思わず叫んでしまった。
「でも。不意打ちはダメですって。そういう訓練してきたんですからあぁ」
「え。ご、ごめんなさい……?」
「あおいさんもう一回! お願いします!!」
「ええー……。アイくん強いから、少々じゃダメじゃん」
「お願いしますううぅ」
「はいはい」
……ああ。これで少しは楽になれる。これで……。やっと俺は。
「目を瞑って。歯、食い縛って」
「はいっ!」
ごめんなさい、あおいさん。やさしいあなたをこんな風に利用して。
大きく彼女は腕を上げた。それを最後に、俺はゆっくり瞳を閉じる。
たくさんたくさん謝りたいんだ。酷いことをたくさんしてきたこともそう。キスした……のは、ちょっと許してはもらいたいけど。でも幸せだった。あの瞬間。ほんの一時でも、あなたの横を歩けたことが。
……でも、してきたことは最低だ。自分がもっと強かったら。何度思ったか。自分がもっと頭が良ければ。何度も何度も思った。
言われてきたのは『使えない』。それはもう、八つ当たりだったんだってこともわかってる。それでも、もっと、俺があおいさんみたいだったら。あなたをこんな目に遭わせることはなかっただろう。あなたの名前も、見つけ出す努力をしていただろう。
結局は自分に勇気がなかったんだ。あの時もそう。花畑でも。結局は、彼に俺自身も救われた。ほんと。あおいさんが惚れるのもわかるよ。
さっきはあんなことを言ったけど……誰かのために動ける彼は。本当に、誰よりもかっこいい――――
「……。え」
来た衝撃は、衝撃と呼べるものではなくて。ふわりとした、やさしい風のようなものだった。
「……。あおい、さん」
目の前の彼女は、ただやわらかく笑っていて。そっとやさしく、俺の両頬を包み込んでいた。



