驚いたように目を瞠る。……きっと、そういうことなんだろう。
「まあ、その人の気持ちもわかるな。君からの返事は、できることなら聞きたくないもん」
「……あいくん」
だって、答えはもうわかってるんだ。それでも言ってくる彼女は……ちょっと酷だ。
「えっと。わたしは、これが正しいのかなんてわからないんだけど、みんなの想いには『ありがとう』としか伝えてないんだ」
「え?」
「はじめは、きちんと『ごめんなさい』をするべきなんだろうなって思ってたの。でも、きちんと『ありがとう』も言いたかった」
「……」
「でも、やっぱりアイくんみたいに聞きたくないって言われちゃったんだ。『ありがとう』も……言えなかった。いや、言ったんだけど、きちんと自分の心の底から言えなかったというか。う~ん。なんて言えばいいかな……」
その相手が誰なのか、俺は知らない。わからない。ただ、俺と同じように、彼女のことを好きでしょうがない人なんだろうとだけ、わかった。……返事は聞けない。聞きたくない。でも彼女は、お礼を言うのか。
まあ、そうだろうな。もう答えは決まっているようなものだ。それに、自分たちももう、わかっているようなものだ。
(だから君はまだ、有力候補さん、なんだね)
俺なら……どうだろう。彼女の背中を押してあげたいけど。……君みたいなことはできないだろうな。
「嫌だな~。お礼も聞きたくないな~」
「あいくん……」
わかってる。これは、俺の我が儘。彼女を俺は、困らせたくはないから……。
「聞きたくないな~。……タダでは」
「え?」
「しょうがないから、思いっきり振って三振してあげるっ。その代わりと言っちゃあなんですが、タイムを下さいな?」
「え? と、いうと?」
俺は、まるで怪談でもし始めるかのように。自分の顔に、スマホのライトを当てた。
「あおいさんの惚気が聞きたい!」



