「さてさて。アイさんを慰めるのはどこにし――」
「――カオル!!!!」
「え?」
そんなことを思っていたら、今度はコズエさんが戻ってきた。
「え? こ、コズエさん?」
「もうっ、おかしいと思って心配して戻ってみれば! あのね、女性の髪にはそんなに簡単に触るもんじゃないの! わかった?!」
「え? コズエ、さん?」
確かに、彼女の髪質を見るのに少し触れたけれど。
「しかもあおいちゃんにそんなことしてたら九条くんが怒るでしょ!? そういうことを他人に、しかも女性に簡単に触れるのはやめなさい! わかった?!」
ちょっと前のことを、どうして彼女は知っているのだろう。
「聞いてるの!? カオル!」
「……聞いてますよ~。ただ髪質見えただけじゃないですか。あれですか? 嫉妬ですかあコズエさん」
まあそんなわけないだろうけど、と。……思っていた。
「……っ」
「え? こ、こずえさん?」
でも、目の前の彼女は何も言わなかった。ただ、目を逸らして、口を引き結んでいて。その仕草を、どうしても、自分に都合よく取ってしまう。
まさか。そんな。……ありえない。
「とっ、とにかく! わかった!? ったく、心配して損したわ!」
それがもう、今のぼくには照れ隠しのようにしか見えなかった。
「コズエさんの髪は……触ってもいいですか」
答えを聞く前に、勝手に手が動いてた。すっと通るショートの髪は、いつ触れてもさらさらで、いつもいい香りがする。
「……コズエさん」
逃げない彼女は今、何を思っているんだろう。視線を逸らしている彼女は少し、頬に熱を持ってる気がしてならない。
「……こずえ、さん」
どうしたんだろう。いつも好きでしょうがないのに……今は、いつも以上に彼女のことが愛おしい。
愛おしすぎて。触れている手が。震えていた。
「……? カオル? やっぱりおかしいわ、あなた。どうしたの?」
おかしいのは、一体どっちの方ですか。
なんでいつもみたいに逃げないんですか。なんで顔がちょっと赤いんですか。なんで照れ隠しなんか、……するんですか。……な、んで。
「どうしたのカオル。何かあったの?」
なんで今。ぼくに触れてくるんですかっ。
「う~ん。やっぱり触り心地は彼女には負けますね、コズエさん」
「え? ……はあ!? ……何してんだ、こんの変態があー!!!!」
「いや~ん。コズエさん暴力はいけませんよお」
彼女の胸を触っていたら、危うく本気で殴られそうになった。そうそうこれこれ。これが通常運転です。
「最低!! ていうか彼女って誰だ! あんたの犠牲者は誰だ!」
「ああ~。また妬いてるんですね! コズエさんかわいい~」
「痴漢の容疑者として逮捕するわ」
「いや~ん。それだけはご勘弁を~」
そう言って逃げる。今は。今だけは……。



