すべての花へそして君へ①


「さてさて。アイさんを慰めるのはどこにし――」

「――カオル!!!!」

「え?」


 そんなことを思っていたら、今度はコズエさんが戻ってきた。


「え? こ、コズエさん?」

「もうっ、おかしいと思って心配して戻ってみれば! あのね、女性の髪にはそんなに簡単に触るもんじゃないの! わかった?!」

「え? コズエ、さん?」


 確かに、彼女の髪質を見るのに少し触れたけれど。


「しかもあおいちゃんにそんなことしてたら九条くんが怒るでしょ!? そういうことを他人に、しかも女性に簡単に触れるのはやめなさい! わかった?!」


 ちょっと前のことを、どうして彼女は知っているのだろう。


「聞いてるの!? カオル!」

「……聞いてますよ~。ただ髪質見えただけじゃないですか。あれですか? 嫉妬ですかあコズエさん」


 まあそんなわけないだろうけど、と。……思っていた。


「……っ」

「え? こ、こずえさん?」


 でも、目の前の彼女は何も言わなかった。ただ、目を逸らして、口を引き結んでいて。その仕草を、どうしても、自分に都合よく取ってしまう。
 まさか。そんな。……ありえない。


「とっ、とにかく! わかった!? ったく、心配して損したわ!」


 それがもう、今のぼくには照れ隠しのようにしか見えなかった。


「コズエさんの髪は……触ってもいいですか」


 答えを聞く前に、勝手に手が動いてた。すっと通るショートの髪は、いつ触れてもさらさらで、いつもいい香りがする。


「……コズエさん」


 逃げない彼女は今、何を思っているんだろう。視線を逸らしている彼女は少し、頬に熱を持ってる気がしてならない。


「……こずえ、さん」


 どうしたんだろう。いつも好きでしょうがないのに……今は、いつも以上に彼女のことが愛おしい。
 愛おしすぎて。触れている手が。震えていた。


「……? カオル? やっぱりおかしいわ、あなた。どうしたの?」


 おかしいのは、一体どっちの方ですか。
 なんでいつもみたいに逃げないんですか。なんで顔がちょっと赤いんですか。なんで照れ隠しなんか、……するんですか。……な、んで。


「どうしたのカオル。何かあったの?」


 なんで今。ぼくに触れてくるんですかっ。


「う~ん。やっぱり触り心地は彼女には負けますね、コズエさん」

「え? ……はあ!? ……何してんだ、こんの変態があー!!!!」

「いや~ん。コズエさん暴力はいけませんよお」


 彼女の胸を触っていたら、危うく本気で殴られそうになった。そうそうこれこれ。これが通常運転です。


「最低!! ていうか彼女って誰だ! あんたの犠牲者は誰だ!」

「ああ~。また妬いてるんですね! コズエさんかわいい~」

「痴漢の容疑者として逮捕するわ」

「いや~ん。それだけはご勘弁を~」


 そう言って逃げる。今は。今だけは……。