「――!! かっ、お……る?」
腕の中の彼女は一瞬逃げようとしたものの、それでもおかしい自分に不安そうな声を上げた。
「……カオル? ほんと、どうしたの?」
目の前の彼女への想いだけは変わらない。彼女への想いに、“もし”なんていらない。変わりたくなど、……ない。
「……おかえりなさい。コズエさん」
「カオル……。ええ。ただいま」
いつか、この想いが届くことがあるのだろうか。……いいや。きっと届いたとしても、彼女の選ぶ道などわかりきっている。
――――だから線を引く。
「うう~ん。コズエさんガリガリですぅ。もうちょっとボリュームある方がぼく的には嬉しいですう」
「はあ!? ちょっ、しおらしいかと思えばっ!! 離れなさいっ!」
「もうちょっと~。もうちょっとだけ引っ付かせてくださいよお」
「やめなさいっ!!!! 私はまだすることがあるんだから!!!!」
「むう~! しょうがないですねえ。それじゃあ、今夜は一緒のベッドで寝ましょお」
「寝ないわよ!!!!」
ぼくを突き飛ばすように腕の中から出ていった彼女は、靴音に苛立ちを混ぜて、会場の方へと足を進めていった。
「……コズエさん」
彼女の今の仕事では自分など邪魔に過ぎない。自分もやりたいことはある。彼女の足枷にだけは、なりたくはない。
「……あ。カオルくーん! まだいてくれた!」
「え?」
さっき駆けて行った彼女が、何やら大急ぎでこちらへと戻ってきた。
「あの、あのね? ヒナタくんの髪、染めてくれたんでしょ?」
「え? ええ、そうなんです。ほんと、人使いが荒いんですから。彼氏さん、ちゃんと躾けといてくださいよお」
「あはは。まだ彼氏有力候補さんだけどね」
「え?」
それについては……よくはわかりませんが。
にしても、何故彼女はここへ戻ってきたのだろう。もしかして、アイさんはいなかったのだろうか。
「アイさんには、会われたんですか?」
「え? ううん! まだ庭園には行ってないんだ」
「でしたら何故?」
何故彼女は、自分を捜してここまで戻って来たのだろう。
「お礼! 言うの忘れてて。ちょっと扱き使われて申し訳ないんだけどね。ヒナタくんの髪、染めてくれてありがと! すっごい上手なんだね!」
「……え」



