すべての花へそして君へ①


「――!! かっ、お……る?」


 腕の中の彼女は一瞬逃げようとしたものの、それでもおかしい自分に不安そうな声を上げた。


「……カオル? ほんと、どうしたの?」


 目の前の彼女への想いだけは変わらない。彼女への想いに、“もし”なんていらない。変わりたくなど、……ない。


「……おかえりなさい。コズエさん」

「カオル……。ええ。ただいま」


 いつか、この想いが届くことがあるのだろうか。……いいや。きっと届いたとしても、彼女の選ぶ道などわかりきっている。

 ――――だから線を引く。


「うう~ん。コズエさんガリガリですぅ。もうちょっとボリュームある方がぼく的には嬉しいですう」

「はあ!? ちょっ、しおらしいかと思えばっ!! 離れなさいっ!」

「もうちょっと~。もうちょっとだけ引っ付かせてくださいよお」

「やめなさいっ!!!! 私はまだすることがあるんだから!!!!」

「むう~! しょうがないですねえ。それじゃあ、今夜は一緒のベッドで寝ましょお」

「寝ないわよ!!!!」


 ぼくを突き飛ばすように腕の中から出ていった彼女は、靴音に苛立ちを混ぜて、会場の方へと足を進めていった。


「……コズエさん」


 彼女の今の仕事では自分など邪魔に過ぎない。自分もやりたいことはある。彼女の足枷にだけは、なりたくはない。


「……あ。カオルくーん! まだいてくれた!」

「え?」


 さっき駆けて行った彼女が、何やら大急ぎでこちらへと戻ってきた。


「あの、あのね? ヒナタくんの髪、染めてくれたんでしょ?」

「え? ええ、そうなんです。ほんと、人使いが荒いんですから。彼氏さん、ちゃんと躾けといてくださいよお」

「あはは。まだ彼氏有力候補さんだけどね」

「え?」


 それについては……よくはわかりませんが。
 にしても、何故彼女はここへ戻ってきたのだろう。もしかして、アイさんはいなかったのだろうか。


「アイさんには、会われたんですか?」

「え? ううん! まだ庭園には行ってないんだ」

「でしたら何故?」


 何故彼女は、自分を捜してここまで戻って来たのだろう。


「お礼! 言うの忘れてて。ちょっと扱き使われて申し訳ないんだけどね。ヒナタくんの髪、染めてくれてありがと! すっごい上手なんだね!」

「……え」