すべての花へそして君へ①


「……だから、オレに吐けばいいと思って」

「ひなクン……」

「別に、今すぐとかじゃなくてもよかったんだけど、たまたま通ったから」

「ほんとにたまたま?」

「え。もう流石にストーカーしないよ」

(そうだね。それ以上のことしちゃってたもんね……)


 ひなクンはしゃがみ込みながら、彼女が走り去っていった廊下の先を見つめていた。そんな彼を見て、おれも同じようにその視線の先を追う。


「たまたま通って、またでもいいかなって思ったけど。……またにしちゃいけないなって思ったから」


 ……よく似てる。


「今ならアカネが、吐いてくれると思ったから来たんだけど……すみません、ほんと。オレは欲求の塊みたいです」

「そうだね」

「アカネが冷たい……」


 そう言うひなクンは、ちょっとしょげてしまったようだ。まあそうだろうな。普段と違って今のおれ、目つき悪いだろうからね。


「せっかく来てくれたみたいだし、今のひなクン弱そうだから、言っちゃおうかな」

「……素直に頷けないんだけど。でも、よかったら言ってくれる? アカネ」

(そういうやさしいところとか、ほんとよく似てるよね)


 似てないようで、よく似てるんだ、二人とも。全く違うようで、根元のとこが、同じなんだよね。……おれなんか。


「いいなあ~って思う。素直に」


 おれなんか、やさしいとか言っても、あんなこと思う辺り汚いのに。真っ黒で汚くて汚れてて。それを、隠して……いたかったのにな。君にも。


「ひなクンのこと、羨ましいな~って思う。いろいろ」


 こんなの、彼に吐いたところでどうこうなるわけじゃないけど。今思うのはそれだけかな。さっきだったら、どれだけ酷い言葉を言ってたのかわからないけど……ちょっとは効いたかな。あかねパンチが。


「だから、きっとあおいチャンは幸せになるだろうなって思う」

「アカネ……」

「ひなクンなら、絶対にあおいチャンを幸せにできるだろうなって、そう思う。……絶対、幸せにしてあげてね」


 今、ちょっとまともに顔、上げらんないや。絶対今、変な顔してるや。


「……さっきさ」

「ん?」

「アキくんから、あいつの伝言を聞いたんだけど」

「え。あ、あきクン?」


 ちらりと彼の顔を覗いてみたら、なんだか楽しげに笑ってた。自分は今、そんな風に笑えないと、そう思っていたんだけど。


「マジかっこいいよ、あいつ。オレのこと、世界で一番の幸せ者にしてくれるんだって」

「ぶはっ!」


 かっこいいどころの話じゃない、まさかの逆プロポーズに噴き出してしまった。


「まあ、プロポーズは何回もしてもらってるんだよ、これでも」

「え。そ、そうなの……?」


 なんとまあ、羨ましいことで。


「本人がしれっとそんなかっこいいこと言うもんだから、オレのハードルがどんどん上がっていくんだけど、どうしたらいいと思う?」

「そ、それは、……きっとあおいチャンなら、どんな言葉でも嬉しいと思うよ!」

「……だよね。オレもそう思う」