すべての花へそして君へ①


 こんなことを、彼女が求めてないことぐらいは、十分わかってる。……っ。わかってる。
 泣き崩れたおれを、ただ彼女は何も言わずに抱き締めてくれた。


「……。あおいチャン」

「ん? なあに?」


 少し落ち着いた頃、そっと顔を上げたら、やさしい笑顔の彼女がいた。


「……。こんなこと……。言わないつもりだったんだ」

「……そっか」

「あおいチャンは、聞きたくないと思ったから」

「……あかねくん」

「言いたく、なかったんだ。なのに……。わかっちゃう、からっ」

「あはは……」


 ちょっと拗ねると、彼女は苦笑い。でも、そんな顔もやっぱりかわいい。


「……あのね? おれは、あおいチャンとこうして話してることが、夢のようなんだ」

「え? ……どういうこと?」


 あれは、彼女が桜に編入してきた時の話。


「本当にマミリンが来たのかと思ったんだ」

「お、おう。すっかり忘れてたぞ、その設定」


 そんな、魔法少女に似た女の子が来るなんて、本当に夢みたいだった。それでも、おれには近寄ることはできなかった。


「あおいチャンがこんな性格なら、もっと早くから衣装の試着頼めばよかったよ~」

「あはは……」


 見た目は美人。清楚で、道明寺のお嬢様。……一端のおれが関われるはずもない。


「……ほんと、夢みたいだ」

「あかねくん」


 桜だからこそ、そういうバラバラな血筋でも仲良くなれたりするんだろう。……だから、本当に信じられない。あの頃の自分は、きっと今の状況に驚いているだろう。


「おれと、友達になってくれてありがとうね、あおいチャンっ」

「あ、かねくん……」


 今できる、最高の笑顔で笑いかける。
 そして、伝えよう。


「はじめは、マミリンに似てるから惹かれてた。きっとそう」


 君への想いを――――。


「楽しそうに笑う、君が好き」


 でも、彼女自身を知ったらもう、君に惹かれたんだ。本当の笑顔を向けてくれた瞬間、恋に落ちた。


「いつも一生懸命な、君が好き」


 必死になって、願いを叶える彼女が、凜々しかった。


「面白くって、涙もろくって。……でもやっぱりおれは」


 漫画が好きで、アニメが好きで。ちょっとしたことで泣いてくれて。
 ……それでも、やっぱりおれが惹かれるのは。


「……へへ。おれは、強くてかっこいいあおいチャンが、大好きだよ?」

「……そっか! ありがと。とっても嬉しいっ」


 ギャップのありすぎる彼女だけれど。おれが落ちたのは、きっと『強い君』だと思うんだ。


「わたしも、強くてやさしくて、ちょっとかわいいアカネくんが、大好きだよ?」

「そっか! ……ありがと。あおいチャンっ」


 彼女は、それ以上は言わなかった。きっと、おれのためを思ってくれたんだろう。