こんなことを、彼女が求めてないことぐらいは、十分わかってる。……っ。わかってる。
泣き崩れたおれを、ただ彼女は何も言わずに抱き締めてくれた。
「……。あおいチャン」
「ん? なあに?」
少し落ち着いた頃、そっと顔を上げたら、やさしい笑顔の彼女がいた。
「……。こんなこと……。言わないつもりだったんだ」
「……そっか」
「あおいチャンは、聞きたくないと思ったから」
「……あかねくん」
「言いたく、なかったんだ。なのに……。わかっちゃう、からっ」
「あはは……」
ちょっと拗ねると、彼女は苦笑い。でも、そんな顔もやっぱりかわいい。
「……あのね? おれは、あおいチャンとこうして話してることが、夢のようなんだ」
「え? ……どういうこと?」
あれは、彼女が桜に編入してきた時の話。
「本当にマミリンが来たのかと思ったんだ」
「お、おう。すっかり忘れてたぞ、その設定」
そんな、魔法少女に似た女の子が来るなんて、本当に夢みたいだった。それでも、おれには近寄ることはできなかった。
「あおいチャンがこんな性格なら、もっと早くから衣装の試着頼めばよかったよ~」
「あはは……」
見た目は美人。清楚で、道明寺のお嬢様。……一端のおれが関われるはずもない。
「……ほんと、夢みたいだ」
「あかねくん」
桜だからこそ、そういうバラバラな血筋でも仲良くなれたりするんだろう。……だから、本当に信じられない。あの頃の自分は、きっと今の状況に驚いているだろう。
「おれと、友達になってくれてありがとうね、あおいチャンっ」
「あ、かねくん……」
今できる、最高の笑顔で笑いかける。
そして、伝えよう。
「はじめは、マミリンに似てるから惹かれてた。きっとそう」
君への想いを――――。
「楽しそうに笑う、君が好き」
でも、彼女自身を知ったらもう、君に惹かれたんだ。本当の笑顔を向けてくれた瞬間、恋に落ちた。
「いつも一生懸命な、君が好き」
必死になって、願いを叶える彼女が、凜々しかった。
「面白くって、涙もろくって。……でもやっぱりおれは」
漫画が好きで、アニメが好きで。ちょっとしたことで泣いてくれて。
……それでも、やっぱりおれが惹かれるのは。
「……へへ。おれは、強くてかっこいいあおいチャンが、大好きだよ?」
「……そっか! ありがと。とっても嬉しいっ」
ギャップのありすぎる彼女だけれど。おれが落ちたのは、きっと『強い君』だと思うんだ。
「わたしも、強くてやさしくて、ちょっとかわいいアカネくんが、大好きだよ?」
「そっか! ……ありがと。あおいチャンっ」
彼女は、それ以上は言わなかった。きっと、おれのためを思ってくれたんだろう。



