気付かれないように。絶対に、気付かれないように言葉を紡いだ。聡いあおいチャンに、絶対バレちゃダメだ。じゃないと、誰よりもやさしい彼女がまた、傷付いてしまうから。
「モデルもいいけど、アカネくんの絵を見に行きたいな」
「そ、そっか。それならお父さんのも見せてあげる! すっごい上手なんだ~」
「おお! あの時行った時もちらっと見たけど、本当にすごかったね! 今度はじっくり見させてもらって鑑定でもしよう!」
「え。そんなこともできるの……」
「いろいろ叩き込まれたからね~。基本なんでもできるかな?」
「……すごいね」
どうして彼女は、あんなつらいことがあったのに笑顔でいられるんだ。
「……アカネくん?」
……ほんと、強いな。ほんとすごいな。彼女は。
「……あかねくん」
そんなところに惹かれたんだ。強くてやさしい、あたたかい彼女に。
「あおい、チャン……」
「ん?」
だから、悔しいんだ。踏み込んだけど、作られた分厚い壁を、おれは破れなかった。
「……なんでもないよ。ごめん」
「あかねくん……」
わからなかった。あのカードの意味も。君が、大好きなおれらと距離を置く意味も。
「あおいチャン。今、幸せ?」
「え?」
でも、もう終わった。彼女を運命から救い出してやることも。
「あおいチャンを、好きになれてよかったよ」
「あかね……くん……」
……この、想いも。
「う~ん。幸せ……だけど、まだまだ足りない、かな?」
「え……?」
目の前の彼女はそんなことを言う。何を言い出すんだろうかと思ったら。
「わたしの幸せは、みんなの幸せだから。みんなも幸せじゃないと、わたしは幸せにはなれないんだ」
「……あおい、チャン」
ほら。やっぱり彼女はわかってた。
「……おれ、そんなに隠すの。へたっぴかな」
「ううん、上手。……でも今は、そういうことにちょっと敏感なんだ」
「あおいチャン……?」
「……だからね? 教えて欲しいな。アカネくんが今、どんなこと思ってるのか」
敏感……は、ちょっとわからなかったけど。やっぱり、彼女に隠し事なんてできやしないんだ。
「……怖かったんだ、多分」
だから、ついて出るのは、本当の本音。
「あおいチャンに……嫌われるのが」
「あかねくん……」
踏み込む時も相当の覚悟だった。嫌われてもいいと、そう思った。嫌われてもいいから、絶対に彼女を助けてやるんだと。……そう、心に決めていた。
「こわ。かったんだ。あおいチャンに。拒絶、されるのが」
するはずはないと思ってた。でも、彼女はがっちりと嘘の笑顔を着け始めた。彼を、存在しないかのように扱った。それが、自分だったらと思うと……。
「……。こわかった。んだ」
そんなもの、耐えられる自信がない。
彼女の中に自分がいなくなるなんて。……そんなこと。
「もっと早く……。気付いてあげられなくて……っ。たすけてあげられなくてっ、ごめんなさいっ……!」
「あかねくん!」



