すべての花へそして君へ①


 気付かれないように。絶対に、気付かれないように言葉を紡いだ。聡いあおいチャンに、絶対バレちゃダメだ。じゃないと、誰よりもやさしい彼女がまた、傷付いてしまうから。


「モデルもいいけど、アカネくんの絵を見に行きたいな」

「そ、そっか。それならお父さんのも見せてあげる! すっごい上手なんだ~」

「おお! あの時行った時もちらっと見たけど、本当にすごかったね! 今度はじっくり見させてもらって鑑定でもしよう!」

「え。そんなこともできるの……」

「いろいろ叩き込まれたからね~。基本なんでもできるかな?」

「……すごいね」


 どうして彼女は、あんなつらいことがあったのに笑顔でいられるんだ。


「……アカネくん?」


 ……ほんと、強いな。ほんとすごいな。彼女は。


「……あかねくん」


 そんなところに惹かれたんだ。強くてやさしい、あたたかい彼女に。


「あおい、チャン……」

「ん?」


 だから、悔しいんだ。踏み込んだけど、作られた分厚い壁を、おれは破れなかった。


「……なんでもないよ。ごめん」

「あかねくん……」


 わからなかった。あのカードの意味も。君が、大好きなおれらと距離を置く意味も。


「あおいチャン。今、幸せ?」

「え?」


 でも、もう終わった。彼女を運命から救い出してやることも。


「あおいチャンを、好きになれてよかったよ」

「あかね……くん……」


 ……この、想いも。


「う~ん。幸せ……だけど、まだまだ足りない、かな?」

「え……?」


 目の前の彼女はそんなことを言う。何を言い出すんだろうかと思ったら。


「わたしの幸せは、みんなの幸せだから。みんなも幸せじゃないと、わたしは幸せにはなれないんだ」

「……あおい、チャン」


 ほら。やっぱり彼女はわかってた。


「……おれ、そんなに隠すの。へたっぴかな」

「ううん、上手。……でも今は、そういうことにちょっと敏感なんだ」

「あおいチャン……?」

「……だからね? 教えて欲しいな。アカネくんが今、どんなこと思ってるのか」


 敏感……は、ちょっとわからなかったけど。やっぱり、彼女に隠し事なんてできやしないんだ。


「……怖かったんだ、多分」


 だから、ついて出るのは、本当の本音。


「あおいチャンに……嫌われるのが」

「あかねくん……」


 踏み込む時も相当の覚悟だった。嫌われてもいいと、そう思った。嫌われてもいいから、絶対に彼女を助けてやるんだと。……そう、心に決めていた。


「こわ。かったんだ。あおいチャンに。拒絶、されるのが」


 するはずはないと思ってた。でも、彼女はがっちりと嘘の笑顔を着け始めた。彼を、存在しないかのように扱った。それが、自分だったらと思うと……。


「……。こわかった。んだ」


 そんなもの、耐えられる自信がない。
 彼女の中に自分がいなくなるなんて。……そんなこと。


「もっと早く……。気付いてあげられなくて……っ。たすけてあげられなくてっ、ごめんなさいっ……!」

「あかねくん!」