「……は?」
「……えへ?」
「はあ!? お、おまっ……。い、いま。な、なに?」
「ツバサくん、日本語下手だね~」
「誰のせいだと思ってんだよ!!!!」
「ん? ……わたし?」
「悩むところじゃねえよ!」
いきなりそんなことをしてきた葵に動揺しまくる。しかし葵はというと、楽しそうに笑っているだけだった。
「お、お前。なんか企んでたのか……」
「企む……というか、お許しが出た?」
「は? どういうことだよ」
全く状況が掴めない俺は、怪訝な顔でその先を促す。
「あのね? ツバサくんとさっき別れたあと、二人で話してたんだ。お兄ちゃん甘やかしたいなーって。まあヒナタくんは、わたしのことに関しては嫌だったみたいなんだけど」
「全く意味がわかんねえ……」
「そこで、さっきの内緒話。……ツバサくん泣いてたから、なんとかしてやってって」
「……日向のやつ……」
「言われるまでもなかったけどね! 涙を止める気は満々さ! そこで、どうしても止まんなかったらって、お許しをいただいていたのだよ」
「……え。それって……」
「一回なら許すって。それで、どういうことか全くわからなかったから聞き返してー。それで、ど、どこにするんだ!? って聞いたら最後、わたしの『ここ』にして行ったから、ああここかあ~! と思ってだね」
「お前こそ日本語相当ダメだな」
「よくヒナタくんに言われるー」
「そうですか……」
「だから……まあ、お礼と思ってくれたら」
「は? お礼って? なんかしたか?」
「たくさん! たっくさんいろんなことしてもらったからっ! わたしがこんなことするなんて貴重だぞ? ありがたやありがたやー……」
「いや、意味わかんねえし」
葵はというと、両手を顔の前で火が出そうなほど擦り合わせていた。その勢いにビビるものの、貴重という単語が、ちょっと気になってしょうがなかった。
「ん?」
「いや、どれだけ貴重なのかと思ってさ。もしかして初めて――」
「四回目だね!」
「そ、そうですか……」
期待を完全に裏切られた。まだ二回、三回ならまだしも、四回ってなったら貴重感がだいぶ薄れるわ。なんでだっ。
「オウリくんとー、アキラくんとー、あとはアイくんかな? よし! それじゃあ、言いたいことも言えたし、ツバサくんの甘やかしもできたし! 大満足じゃ!」
「だいぶキャラ壊れてるぞ……」
「大丈夫大丈夫! 制限かからなくなったから、もっとこれから壊れるよ!」
「それ、大丈夫じゃねえよ……」
……あれ。そういえばさっき、葵はなんて言ってたっけ……。
「……覚えておいて欲しいんだ、ツバサくん」
「……葵?」
ゆっくりと目を閉じ、葵はさっきまでのお気楽な空気をがらりと変えた。それは、さっき日向や俺がしたようなものと、どこか似ていた。
「今、こう言うのもどうかと思うんだ。でも、知ってて欲しいから。わたしもヒナタくんも同じこと、思ってるから……」
ゆっくりと開いた目は細められ、そっと触れ合う額。ぼやけて見えないくらい近い距離に、彼女の顔があった。



