すべての花へそして君へ①


「……は?」

「……えへ?」

「はあ!? お、おまっ……。い、いま。な、なに?」

「ツバサくん、日本語下手だね~」

「誰のせいだと思ってんだよ!!!!」

「ん? ……わたし?」

「悩むところじゃねえよ!」


 いきなりそんなことをしてきた葵に動揺しまくる。しかし葵はというと、楽しそうに笑っているだけだった。


「お、お前。なんか企んでたのか……」

「企む……というか、お許しが出た?」

「は? どういうことだよ」


 全く状況が掴めない俺は、怪訝な顔でその先を促す。


「あのね? ツバサくんとさっき別れたあと、二人で話してたんだ。お兄ちゃん甘やかしたいなーって。まあヒナタくんは、わたしのことに関しては嫌だったみたいなんだけど」

「全く意味がわかんねえ……」

「そこで、さっきの内緒話。……ツバサくん泣いてたから、なんとかしてやってって」

「……日向のやつ……」

「言われるまでもなかったけどね! 涙を止める気は満々さ! そこで、どうしても止まんなかったらって、お許しをいただいていたのだよ」

「……え。それって……」

「一回なら許すって。それで、どういうことか全くわからなかったから聞き返してー。それで、ど、どこにするんだ!? って聞いたら最後、わたしの『ここ』にして行ったから、ああここかあ~! と思ってだね」

「お前こそ日本語相当ダメだな」

「よくヒナタくんに言われるー」

「そうですか……」

「だから……まあ、お礼と思ってくれたら」

「は? お礼って? なんかしたか?」

「たくさん! たっくさんいろんなことしてもらったからっ! わたしがこんなことするなんて貴重だぞ? ありがたやありがたやー……」

「いや、意味わかんねえし」


 葵はというと、両手を顔の前で火が出そうなほど擦り合わせていた。その勢いにビビるものの、貴重という単語が、ちょっと気になってしょうがなかった。


「ん?」

「いや、どれだけ貴重なのかと思ってさ。もしかして初めて――」

「四回目だね!」

「そ、そうですか……」


 期待を完全に裏切られた。まだ二回、三回ならまだしも、四回ってなったら貴重感がだいぶ薄れるわ。なんでだっ。


「オウリくんとー、アキラくんとー、あとはアイくんかな? よし! それじゃあ、言いたいことも言えたし、ツバサくんの甘やかしもできたし! 大満足じゃ!」

「だいぶキャラ壊れてるぞ……」

「大丈夫大丈夫! 制限かからなくなったから、もっとこれから壊れるよ!」

「それ、大丈夫じゃねえよ……」


 ……あれ。そういえばさっき、葵はなんて言ってたっけ……。


「……覚えておいて欲しいんだ、ツバサくん」

「……葵?」


 ゆっくりと目を閉じ、葵はさっきまでのお気楽な空気をがらりと変えた。それは、さっき日向や俺がしたようなものと、どこか似ていた。


「今、こう言うのもどうかと思うんだ。でも、知ってて欲しいから。わたしもヒナタくんも同じこと、思ってるから……」


 ゆっくりと開いた目は細められ、そっと触れ合う額。ぼやけて見えないくらい近い距離に、彼女の顔があった。