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「ちょっと耳貸して」
「え?」
葵は日向にそう言われて、何かを耳打ちされていた。
(奪ってみろ、か……)
奪うつもりは毛頭ない。これは本当だ。ただの、俺の我が儘なんだ。まだ、やっぱり好きでいたいっていう。
(……いつの間に、そんなにかっこよくなったのか)
兄の自分でさえ、そんな弟は知らなかった。でも、そんな弟の成長が垣間見えて、嬉しかった。
「え? どういうこと?」
「っ、だからさ」
目の前でいちゃついてやがる。
でも、なんていうか。……やっぱりちょっと、気が楽になった。
(葵に『言え』って言ってたのは、俺の方なのにな)
つらいことがあるなら言ってこいと。何も聞かないでやるからいつでも来いと。……そう言ってた自分が今、溢れに溢れ、大爆発した。
(……受け止めてくれた。こんな……汚い俺の想い)
受け止めてくれるんだろうと思ってたけど。葵にだけは、絶対に言いたくなかった。汚い汚い。ただの、酷い嫉妬。
(あー。……ほんと。マジかっこいいな)
ほんと、自分が情けなくてしょうがない。
わかってる。葵が、どうして日向を選んだのかってことくらい。ずっとわかってた。どれだけ日向が、葵のことを好いていたのかも。……それを、ずっとずっと隠していたことも。
(……だからさ、うれしいんだ、おれは)
そう思ったらまた、勝手に涙が溢れて、止まらなくなった。
「……! つばさくん……」
拭うことはしなかった。でも、やっとちゃんと見ることができた。
葵の顔、日向の顔。……ちゃんと見られてる。ちゃんと俺、心から笑えてる。
「はあ。……それじゃ、後は頼んだ」
「……! ひっ、ひなたくんっ!」
葵のこめかみ付近にキスを落とした日向は、しれっと立ち上がって後ろ手に手を振り、さっさと立ち去っていった。
……なんか今、あいつが何やってもかっこよく見える。悔しいけど……ま。いっか。今だけは。
「もぉおお!」と顔を真っ赤にしながら葵は、日向の背中に牛のような唸り声を投げ飛ばしていた。日向は日向で、聞こえてるくせに完全無視でさっさと廊下から姿を消したけど。
「ははっ。……仲、いいのな、お前ら」
言葉はないのに、なんでも解ってるような。どこか通じ合ってる二人にちょっとだけ妬けるけど、やっぱり嬉しい気持ちが勝った。
「つばさくん……。ああいうのはどうにかなりませんかね……」
「はは。無理に決まってるだろ? 俺の弟だし」
「そ、そうっすね……」
残念ながら、それは無理な相談だ。それに、俺が言ったところでどうにかなる問題じゃないだろ。一番効くのは、お前が言った言葉だってのに。
「ちょっと耳貸して」
「え?」
葵は日向にそう言われて、何かを耳打ちされていた。
(奪ってみろ、か……)
奪うつもりは毛頭ない。これは本当だ。ただの、俺の我が儘なんだ。まだ、やっぱり好きでいたいっていう。
(……いつの間に、そんなにかっこよくなったのか)
兄の自分でさえ、そんな弟は知らなかった。でも、そんな弟の成長が垣間見えて、嬉しかった。
「え? どういうこと?」
「っ、だからさ」
目の前でいちゃついてやがる。
でも、なんていうか。……やっぱりちょっと、気が楽になった。
(葵に『言え』って言ってたのは、俺の方なのにな)
つらいことがあるなら言ってこいと。何も聞かないでやるからいつでも来いと。……そう言ってた自分が今、溢れに溢れ、大爆発した。
(……受け止めてくれた。こんな……汚い俺の想い)
受け止めてくれるんだろうと思ってたけど。葵にだけは、絶対に言いたくなかった。汚い汚い。ただの、酷い嫉妬。
(あー。……ほんと。マジかっこいいな)
ほんと、自分が情けなくてしょうがない。
わかってる。葵が、どうして日向を選んだのかってことくらい。ずっとわかってた。どれだけ日向が、葵のことを好いていたのかも。……それを、ずっとずっと隠していたことも。
(……だからさ、うれしいんだ、おれは)
そう思ったらまた、勝手に涙が溢れて、止まらなくなった。
「……! つばさくん……」
拭うことはしなかった。でも、やっとちゃんと見ることができた。
葵の顔、日向の顔。……ちゃんと見られてる。ちゃんと俺、心から笑えてる。
「はあ。……それじゃ、後は頼んだ」
「……! ひっ、ひなたくんっ!」
葵のこめかみ付近にキスを落とした日向は、しれっと立ち上がって後ろ手に手を振り、さっさと立ち去っていった。
……なんか今、あいつが何やってもかっこよく見える。悔しいけど……ま。いっか。今だけは。
「もぉおお!」と顔を真っ赤にしながら葵は、日向の背中に牛のような唸り声を投げ飛ばしていた。日向は日向で、聞こえてるくせに完全無視でさっさと廊下から姿を消したけど。
「ははっ。……仲、いいのな、お前ら」
言葉はないのに、なんでも解ってるような。どこか通じ合ってる二人にちょっとだけ妬けるけど、やっぱり嬉しい気持ちが勝った。
「つばさくん……。ああいうのはどうにかなりませんかね……」
「はは。無理に決まってるだろ? 俺の弟だし」
「そ、そうっすね……」
残念ながら、それは無理な相談だ。それに、俺が言ったところでどうにかなる問題じゃないだろ。一番効くのは、お前が言った言葉だってのに。



