「……き、だ……っ」
細い体を、壊れてしまうほど強く抱き締めながら。安堵とともに。涙とともに。彼女のやさしい誘導に、言葉が零れた。
「好き、だ」
……いや。もう限界だったんだ。堪えておくのが。
ガタガタと鳴る、押さえつけていられなくなった箱を、こいつが……開けるから。
「……。っ、すき……なんだ。あおいっ……」
溢れないようにしていたのに。こんなこと言って、またこいつを困らせるだけなのに。
「……。なんで」
――溢れた。自分の中の、醜い醜いドロドロした感情が。
「なんで……ひなた、なの」
もう――押さえられなかった。言いたくなんてなかった。言ったってどうにもならないんだから。
「っ、なんでっ……ひなたなんだよ」
でも、言い出したらもう、止まらなかった。止まらない。止められないんだ。
「昔……。会ってたから。かよ」
「……ちがうよ」
わかってる。俺だって……。わかってるのにっ。
「お、れが……。女、だったから、かよ」
「ううん。違うよ」
わかってる。……わかってるっ。
「ひなたがっ……! おまえのこと知ってたからだろ? ……そんなん。ずりい。……なんだよ。もう……、わかってる、じゃんか……」
「……つばさくん」
違う。違う違うっ! んなわけないだろ。ズルいとかなんだよ。そんなこと言うなんて……ほんと。最低だ。
「俺だって……。ずっと。好きだった……、のにっ……」
編入試験を合格して、それもSクラスへ来た葵に、少なからずずっと興味は持っていた。どんな奴なんだろうって、思ってた。
「今だって……。過去にとか。できるわけ……。ないだろ」
友達だと、そう言っただけで泣きながら嬉しそうに笑うこいつを見て惹かれた。今まで見てきたこいつとは、全く違ったけれど、そっちの方が断然魅力的だった。
「言った……だろ。着させるって。絶対っ」
「うん。そうだね」
こんなつらいことに巻き込まれてるとか、わかるわけないだろ。でも……助けてやりたかったんだ。俺が。
「っ、俺がっ……。助けてやりたかった!」
「……うんっ。ありがと。ありがとね。つばさくん」
子どもの我が儘だ。そんな俺に呆れもせず、ただただ葵は……。
「ありがと。教えてくれて、ありがとうね。つばさくん」
「っ……。あおいっ」
たくさんのお礼を言ってきてくれた。
そんな葵がやっぱり好きで、自分が情けなくて、恥ずかしくて……。
「すきなんだ。まだ……。好きで。いさせてほしいんだ」
「つばさくんがそうしたいんなら。わたしでよければ、だけど」
やさしくてかわいい葵をまた、折れてしまいそうなほどキツくキツく。俺は、抱き締めた。



