――バンッ! と開いた扉の強い勢いで、彼女のコートが、ワンピースが、ふわふわの髪が風で揺れた。ふわっと煽られたそれらが、ゆっくりと時間をかけて元の位置に戻ってくる。
「あお、い……」
どれくらい時間がかかったかわからない。絞り出した声は、なんとも情けないものだった。
「うんっ。なーに?」
扉を閉じた場所から。目の前の彼女は、一歩も動いていなかった。
「な、んで」
弱々しい声。
「多分もう一回、開けてくれると思ってたから」
やさしく返ってくる声。
「……っ。なんで……」
顔が……歪み出す。
「ツバサくんなら、気づいてくれると思ったから」
やさしい顔して、微笑んでる。
「……。っ、なんでっ」
視界がぼやけて、歪んできた最後。
「我慢が得意なお兄ちゃんを、甘やかしに来たぞっ」
膝から崩れ落ちる前に見えたのは、俺の大好きな笑顔だった。
「うえ!? つばさくん!! だいじょうぶ?!」
そう言って、駆け寄ってくる。
「つばさ……、くん」
申し訳なさそうな声が落ちてくる。
「……つばさくん」
あんなに、扉を開ける前は意気込んでいたって言うのに。
「……見、んな」
こんな情けない俺を、見て欲しくなかった。
「つばさくん」
「来、んな」
近づた気配に、怖じ気付いて後ろへ下がる。でも、すぐに背中が壁に当たる。行き止まり。……もう逃げるなって、言われてるみたいだった。
「……つばさくん」
「……!」
音も立てずに座り込んだ葵が、頭を撫でてくる。
驚きとか、怖さとか。情けなさとか。いろんなのがぐちゃぐちゃで、しばらくして落ちた声も、震えてた。



