すべての花へそして君へ①


 ――バンッ! と開いた扉の強い勢いで、彼女のコートが、ワンピースが、ふわふわの髪が風で揺れた。ふわっと煽られたそれらが、ゆっくりと時間をかけて元の位置に戻ってくる。


「あお、い……」


 どれくらい時間がかかったかわからない。絞り出した声は、なんとも情けないものだった。


「うんっ。なーに?」


 扉を閉じた場所から。目の前の彼女は、一歩も動いていなかった。


「な、んで」


 弱々しい声。


「多分もう一回、開けてくれると思ってたから」


 やさしく返ってくる声。


「……っ。なんで……」


 顔が……歪み出す。


「ツバサくんなら、気づいてくれると思ったから」


 やさしい顔して、微笑んでる。


「……。っ、なんでっ」


 視界がぼやけて、歪んできた最後。


「我慢が得意なお兄ちゃんを、甘やかしに来たぞっ」


 膝から崩れ落ちる前に見えたのは、俺の大好きな笑顔だった。


「うえ!? つばさくん!! だいじょうぶ?!」


 そう言って、駆け寄ってくる。


「つばさ……、くん」


 申し訳なさそうな声が落ちてくる。


「……つばさくん」


 あんなに、扉を開ける前は意気込んでいたって言うのに。


「……見、んな」


 こんな情けない俺を、見て欲しくなかった。


「つばさくん」

「来、んな」


 近づた気配に、怖じ気付いて後ろへ下がる。でも、すぐに背中が壁に当たる。行き止まり。……もう逃げるなって、言われてるみたいだった。


「……つばさくん」

「……!」


 音も立てずに座り込んだ葵が、頭を撫でてくる。
 驚きとか、怖さとか。情けなさとか。いろんなのがぐちゃぐちゃで、しばらくして落ちた声も、震えてた。