すべての花へそして君へ①


「レンを三番目にしたのは、信用してるから」

「え」

「数少ないオレの親友にレンちゃんは昇格しました~。オメデトー」

「え……?」


 心から、だと。わかるくらいには、本当に笑っている九条が、見られたから。


「……ほんと、賞状ものだ。ありがと、レン。あいつと、友達になってくれて。……ありがと」


 そう言い残し、もう一度小さく微笑んだあと、あいつは部屋を出て行った。


「……親友」


 正直、こんな人生を送っていた分、そう呼べる人はいなかった。上辺だけの友達はいる。自分の中で友達と呼べるのは、アイさんとカオルだけだった。


「……賞状もの、か」


 じゃあそれは、今度有り難く頂くことにしよう。
 目元にタオルを乗せて再び横になる。あんなに扱き使われたというのに。振り回されたというのに。


(……それが、別に嫌じゃなかったとか。オレも相当、頭の中がおかしいのかも知れないな)


 そんな馬鹿げたことを考えていたオレの口元は、しばらくの間、気持ちが悪いくらい緩んでいた。


 ✿


「ったく。レンのやつ、特に用もないのに呼びつけやがって」


 とは口で言うものの、ずっと言えなかったお礼が、きちんと言えてよかった。……しかしだ。


「……レンの部屋で聞こえたけど、多分あの奇声はあいつ」


 一瞬、パトカーが通ったのかと。しかも、ちゃんと聞き取れなかったけど、叫んでいたのは……。


「ま。あいつなら行くんじゃないかなって思ってたけど」


 だったらオレも行かないと。それで、きちんと言ってやらないと。
 あいつの気持ちも十分わかってる。でもオレは、きちんとあいつに言ってない。……まあ、いつか言えばいいと思ってたけど。


「……あいつが行ったんだ。なら、オレもいってやらないと」


 動けるようになったんなら。持ち直したんなら。……もう大丈夫だ。
 わからないことは、誰だってある。それが当たり前。


「……オレは何もしない。何もできない」


 でも、アドバイスならしてやろう。知らないところでなら支えてやろう。目に見えて、手を差し伸べはしない。そんなのあいつのためにならないし。
 知ってることは確かに多いかも知れない。それは明らか。でも、明らかにいろんな経験が足りなさすぎる。


(だからって、オレが多いわけじゃないけど)


 ふうと。ため息のような呆れのような、小さな息が零れた。


「それで。ツバサの部屋は……と」


 多分だけどオレの予想、あいつは今日即行寝ると思った。だから、それを見つけたあいつが叫び声を上げて逃がすまいとしたんだろうと……。まあ、そこまでは予想していたけど。


「……はあ。本日二度目の浮気現場に遭遇」


 抱き合ってる二人……というより、兄貴を宥めるの図。しかもまた、ちょっと入りにくい雰囲気だし。


「ま。浮気って言ってもまだ候補ですけど」


 もう一度、大きな大きなため息をゆっくり吐いた。