それももちろん理由だ。一番二番にも言ったけれど、ただオレが、安心していられたから。
「レンも元気になったことだし、会場に戻ろっかな。お腹まだ空いてるし」
「おま、……まだ食べるのか」
「う~ん。さっきはまた食べらんなかったけど、オレがこんなことしてるってあいつが知ってからは、また食べられるようになったかな」
「そ、そうか……」
まあ、これも理由ではあるけれど。恥ずかしいセリフ言ったせいとか、絶対こいつには言わねえ。
……あ。そういえば、レンに言うことあるんだった。
「レンちゃんレンちゃんっ」
「……すう……」
「ふざけんな。逃げんじゃねえよ」
「……九条、口が悪いぞ」
「誰のせいだ誰の」
「はあ。……なんだ。あれか? あおいさんにメール見せたこと怒って――」
「へえ? 見せたんだ」
「(……墓穴を掘ったかも知れない)」
「な~にしてくれちゃってんのかな? あ。もしかしてレンちゃん、オレのメッセージがわからなかったとか……そんなことないよね?」
「(完全に墓穴を掘ったらしい……)」
「勝手に墓穴掘ってくれてありがとう。それから、勝手にあいつの唇を奪った挙げ句服の中にまで手を突っ込んだらしいじゃん? オレはまだそこまでしてないのに」
「あ……。あおいさんん……」
チクられたレンは頭を抱えていて。それが、面白いくらい画になっていた。
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確かに、手を出してもいい許可はもらったがそこまではアウトだ。オレだってそれは重々わかってる。それでもそんなことをしてしまったのは、止められなかったからだ。
(……でも、止められなかったからって許されるわけがない)
深く息を吐き、顔を上げてあいつを見上げる。
「わ……、わるい。九条。あおいさんには、きちんと謝ったんだが……」
でも、謝ったって許されるわけがない。だから、鉄槌が下ると。そう、思っていたのに。
「ありがと、レン」
聞き間違いかと思った。聞き間違いだと思った。
しかも、いつの間にか扉を開けているあいつは、ほんの少しだけこちらを振り返っているものの、完全に出ていく気満々だ。いつそこまで行ったのかとか、気にならなかったことはなかったけど……。
「く、じょう……?」
「別にオレがそのことで怒るわけない。だって、その時はまだあいつの気持ちだって知らなかったわけだし」
「で、でも……」
「お礼はね、ずっと言いたかったんだ。あいつのこと、無理矢理寝かせてくれたから。頑張って嘘、ついててくれたから」
「九条……」
そんなことを言った九条にも驚いた。でも、それよりも驚いたのは。照れ臭そうに、嬉しそうに笑ってるこいつを見るのが、初めてだったから。



