すべての花へそして君へ①


 でも、それは違った。


「多分それは、憧れに近いものだと思うんだ」


 彼は、必死になって、わたしなんかのことを助けようとしてくれていた。そんなに必死になって、わたしはわたし自身のことを変えようなんてこと、しなかったなって。……そう、思ったんだ。


「……そうですか」

「うん。だから、そういう意味では、レンくんにはわたしは惹かれてない。レンくん自身のいいところには、ちょっと惹かれたこともあるよ?」

「……あおいさん。ですからそれは……」

「だめ? でもね、正直な気持ちだから。嘘は言いたくないんだ」


 もう嘘は、……本当に懲り懲りだからね。


「ちゃんと自分の気持ちに気が付いてからは、きちんと気持ちに整理ができたの」

「……憧れ、ですか」

「うん。……どう? レンくんの中の答えと合ってたかな?」

「あおいさんがそう仰るなら、そうなんでしょう」

「え」

「言ったでしょう? なんとなくって」


 彼も、とことん言葉で上手いこと逃げるんだな。


「その、誰かを見ている視線に、感情に。オレが名前をつけることはできませんから」


 ――ただ、ふわっと。ぼやっと。本当になんとなく、そんな想いだったんだなと。


「思っていただけですから、あおいさんがそう言ってくださって今、ちゃんと納得できました」

「そっか。……それは、よかった?」

「はい。もちろんそうですよ。よかったです」


 ふわっと顔を綻ばせた彼は、とても無邪気でかわいくて。今度は年相応の、男の子に見えた。


「……レンくん。あの時も、言ったんだけどね」


 あの時――それは、家の中の檻に閉じ込められていた頃のこと。


「はい」


 眠りについてしまう間際。ぶつけてくれた彼の想いは、とても嬉しかった。
 最低なことをしたわたしを、好いてくれていたこと。信じられなかったけど……でも、レンくんがとてもやさしい人だってことは、あの時も感じていた。
 なんだかんだで助けてくれて。酷いことをしても世話を焼いてくれて。……やっと彼に、言いたいことが言える。