すべての花へそして君へ①


「……すごいよね」

「ん?」

「そういう言葉、オレはかけてあげられない」


 そんなことないって、もちろんそう思ってる。でも今は、それは言わない方がいいのかなって。
 ただ少しだけ強く、手を握った。


「……? ……うん。大丈夫だよ。ありがと」


 伝わったなら、それでいい。そんなことないってこともわかって欲しかったけど。そうじゃないんだろうし。


「別に、力が入ってたわけじゃないんだけど……」


 そう言ってくれて、ちょっとラクになった。……嬉しかったと。


(ヒナタくん……)


 小さな声は、微かにわたしの耳に届いた程度。けれど、そういう言葉を口にしてくれたことが、何よりも嬉しかった。


「だから、言えない代わりに『言いたいこと』は言ってって、言ってるんだってば」

「え――」


 喜びに浸っている時間なんか、有ったか無かったか……。ヒナタくんは、わたしの手を強めに引っ張り、皇までもう少しの道(恐らく)をわざわざ外れて細い路地へ入り込んだ。


「ひなっ、……!」


 やさしく……コツンと頭に何かが当たる。


「だからオレは、ずっと『どうしたの』って聞いてるの」


 伝わってくる小さな振動に、それが彼の頭であることがわかる。急に近くなった距離に、息が詰まった。


「え……、っと……」


 視界に入るのは、わたしたちの足元。それから、繋がれた手。ほんの少しだけ、銀色。
 触れているのはその手と頭だけ。銀色に変わった毛先だけ。


「えっと……」


 前でもなくて、後ろでもなくて。路地の壁に背をつけて並ぶように。さっきと同じ。『隣』という場所に居るままなのは、きっと彼の小さなやさしさだ。
 ただでさえ緊張しているというのに、それ以外の場所に居られたんじゃ、多分もっとパニックになってると思う。

 よくわかってるんだな、わたしのこと。わたしよりもわたしのことわかってるって、……すごいな。


「……らしくない」

「……へ?」

「何をそんなに考えてるのか知らないけど、……らしくない」

「……らしく、ない?」

「うん」


 いつも通りのヒナタくんの声に、なんでかふっと変な力が抜けた。


「……らしく、ない……」


「ん」と、肯定する音とともに離れていった彼の方を、見上げる余裕だってできた。……やっぱすごいな、ヒナタくんは。