「……すごいよね」
「ん?」
「そういう言葉、オレはかけてあげられない」
そんなことないって、もちろんそう思ってる。でも今は、それは言わない方がいいのかなって。
ただ少しだけ強く、手を握った。
「……? ……うん。大丈夫だよ。ありがと」
伝わったなら、それでいい。そんなことないってこともわかって欲しかったけど。そうじゃないんだろうし。
「別に、力が入ってたわけじゃないんだけど……」
そう言ってくれて、ちょっとラクになった。……嬉しかったと。
(ヒナタくん……)
小さな声は、微かにわたしの耳に届いた程度。けれど、そういう言葉を口にしてくれたことが、何よりも嬉しかった。
「だから、言えない代わりに『言いたいこと』は言ってって、言ってるんだってば」
「え――」
喜びに浸っている時間なんか、有ったか無かったか……。ヒナタくんは、わたしの手を強めに引っ張り、皇までもう少しの道(恐らく)をわざわざ外れて細い路地へ入り込んだ。
「ひなっ、……!」
やさしく……コツンと頭に何かが当たる。
「だからオレは、ずっと『どうしたの』って聞いてるの」
伝わってくる小さな振動に、それが彼の頭であることがわかる。急に近くなった距離に、息が詰まった。
「え……、っと……」
視界に入るのは、わたしたちの足元。それから、繋がれた手。ほんの少しだけ、銀色。
触れているのはその手と頭だけ。銀色に変わった毛先だけ。
「えっと……」
前でもなくて、後ろでもなくて。路地の壁に背をつけて並ぶように。さっきと同じ。『隣』という場所に居るままなのは、きっと彼の小さなやさしさだ。
ただでさえ緊張しているというのに、それ以外の場所に居られたんじゃ、多分もっとパニックになってると思う。
よくわかってるんだな、わたしのこと。わたしよりもわたしのことわかってるって、……すごいな。
「……らしくない」
「……へ?」
「何をそんなに考えてるのか知らないけど、……らしくない」
「……らしく、ない?」
「うん」
いつも通りのヒナタくんの声に、なんでかふっと変な力が抜けた。
「……らしく、ない……」
「ん」と、肯定する音とともに離れていった彼の方を、見上げる余裕だってできた。……やっぱすごいな、ヒナタくんは。



