すべての花へそして君へ①


「あおいさん。正直言って、九条に声をかけてもらうまでが、毎日苦痛でしょうがなかったんです」

「……れんくん」


 でも、……すみません。そんな空気を、自分は壊します。言っておきたい。今、言っておきたいんです。別に、あなたを虐めたいとか、そんなことは考えてません。
 そんなことを思うのは、……あいつだけでしょうから。


「正直に言うと、本当に家はどうなってもよかったんです。あなたは怒るんでしょうけれど。……でも、譲れなかった。あなただけは」


 ずっと、見ていました。初めて写真を見たあの時から。監視とは名ばかり。盗聴なんかよりも酷いことを、自分は好いた女性にしてきたんだから。


「そして、ずっと謝りたかった。これだけは、言わせて欲しいんです。……言わなくていい、なんてことは言わないで」


 あなたを苦しめたこと。あなたを見ていたこと。……嫌だった。もう、いっそのこと、死んでしまいたいと思うほど。


「だから……よかったっ。あいつに任せて。ずっとあなたを助けたかった。あなたが笑えて……。よかった」


 あいつなら大丈夫だと、確信めいたものがあった。あいつならやってくれると、そう思っていた。オレも、あいつを信じてた。


「だから正直に言うと、あいつの頭がお花畑だったことを思い出した時は、ブチ切れそうでした」

「……あはは」


 目の前の彼女も苦笑いしていた。それもそうだろう。
 オレがあの花畑に行ってたりしてみろ。え、違うよねって、絶対彼女なら思うはずだ。


「でもまあ、九条に付いてから苦しいことはなかったんです。……すごく、罪悪感はありましたけど」

「そっかー」

「はい。……言えてよかったです。あおいさん。たくさんたくさん。辛い時も苦しい時も、助けてあげられなくてすみません。酷いこと、いっぱいしてしまって、すみません」

「れんくん」


 頭を下げて謝るオレの手に、同じようで全く違うやわらかくて滑らかな手を、彼女は添えてきた。……添えて、きた。


「……オレから言うのもなんなんですけど」

「はい?」

「こういうことも、もうしない方がいいかと」

「え?」


 そんな無防備なあなたの手を、オレはぎゅっと握ってしまおう。


「でも、あなたからしたので、逃がしませんけど」

「……。え、っと……」


 そんなことを、しただけで言っただけで、少し目を泳がせはじめた彼女に、小さく笑みを零す。


「大丈夫です。これ以上は何もしません」

「……。……はい」


 そう言ってあげると、取り敢えず落ち着きは取り戻したようだ。
 自分からはこういうことをするくせに、誰かにされるのは慣れていない。そういうところもかわいらしくて、オレは好きなんですけどね。