「あおいさん。正直言って、九条に声をかけてもらうまでが、毎日苦痛でしょうがなかったんです」
「……れんくん」
でも、……すみません。そんな空気を、自分は壊します。言っておきたい。今、言っておきたいんです。別に、あなたを虐めたいとか、そんなことは考えてません。
そんなことを思うのは、……あいつだけでしょうから。
「正直に言うと、本当に家はどうなってもよかったんです。あなたは怒るんでしょうけれど。……でも、譲れなかった。あなただけは」
ずっと、見ていました。初めて写真を見たあの時から。監視とは名ばかり。盗聴なんかよりも酷いことを、自分は好いた女性にしてきたんだから。
「そして、ずっと謝りたかった。これだけは、言わせて欲しいんです。……言わなくていい、なんてことは言わないで」
あなたを苦しめたこと。あなたを見ていたこと。……嫌だった。もう、いっそのこと、死んでしまいたいと思うほど。
「だから……よかったっ。あいつに任せて。ずっとあなたを助けたかった。あなたが笑えて……。よかった」
あいつなら大丈夫だと、確信めいたものがあった。あいつならやってくれると、そう思っていた。オレも、あいつを信じてた。
「だから正直に言うと、あいつの頭がお花畑だったことを思い出した時は、ブチ切れそうでした」
「……あはは」
目の前の彼女も苦笑いしていた。それもそうだろう。
オレがあの花畑に行ってたりしてみろ。え、違うよねって、絶対彼女なら思うはずだ。
「でもまあ、九条に付いてから苦しいことはなかったんです。……すごく、罪悪感はありましたけど」
「そっかー」
「はい。……言えてよかったです。あおいさん。たくさんたくさん。辛い時も苦しい時も、助けてあげられなくてすみません。酷いこと、いっぱいしてしまって、すみません」
「れんくん」
頭を下げて謝るオレの手に、同じようで全く違うやわらかくて滑らかな手を、彼女は添えてきた。……添えて、きた。
「……オレから言うのもなんなんですけど」
「はい?」
「こういうことも、もうしない方がいいかと」
「え?」
そんな無防備なあなたの手を、オレはぎゅっと握ってしまおう。
「でも、あなたからしたので、逃がしませんけど」
「……。え、っと……」
そんなことを、しただけで言っただけで、少し目を泳がせはじめた彼女に、小さく笑みを零す。
「大丈夫です。これ以上は何もしません」
「……。……はい」
そう言ってあげると、取り敢えず落ち着きは取り戻したようだ。
自分からはこういうことをするくせに、誰かにされるのは慣れていない。そういうところもかわいらしくて、オレは好きなんですけどね。



