それから彼女は、どうしてこんなことになったのか。どうしてあいつが、こんなメールを送ってきたのか。きっと頭の片隅にあいつの姿をそっと浮かべながら、掻い摘まんで話してくれた。
「それは……うっわ。オレ、バレたら絶対キレられる……」
ピッチャーあおいさんが、まさかがたついていて、そんな彼女に自信を取り戻すために選出されていたなんて……。絶対彼女に知られたらいけなかっただろ。絶対九条に殺される……。
「レンくんのせいじゃないよ。こんな言い方するヒナタくんが悪いし、元はと言えばわたしのせいだし」
自分のせいだから、と。そう言う彼女は、幸せそうな顔をしていた。
「……あおいさんも、言いにくかったでしょうに。すみません。オレ、そこまで頭よくないんで」
「いやいや。Sクラスになってる時点で十分頭良いから。これは完全に、ヒナタくんの言い回しが悪いだけだから」
落ち込むオレを、やさしく宥めてくれる。でもそれでも、あいつに負けた気がして、やっぱり悔しい。
オレのまわりにはきっと、黒い縦線が入ったオーラがいっぱい漂っているだろう。見えていたらの話。
でも、そんな空気も、あおいさんがさらっと払拭してくれる。
「……でもね? 大丈夫だよ。こんなことしてるって、わたしが知ってること。ヒナタくんももう知ってると思うから」
「え……? ……そう、なんですか?」
「うん。それとなくは、きっと今頃伝言になってるだろうからねー」
「……?」
よくわからなかったけど、そう言い終えたあおいさんは、何故か百面相していた。
「(だ、だから、ちょっとばかし今彼には会いに行きづらいんだよね。きちんと三振を取ってこなければっ。……もう、心配かけたくないからね)」
困ったような……あ。でもちょっと鼻息荒い。……あ。でもなんかちょっと落ち込んだ感じもあるな。……何考えてるんだろ、あおいさん。
「……レンくんも、いろいろヒナタくんに振り回されて大変だったね」
「え? ……いいえ、あおいさん。本気で振り回されたと、オレは一度も思ったことないんです」
「え? そうなの? 体育館倉庫に走れって言われた時も?」
「……正直死ぬかと思いましたけど。でも、あなたが柊に襲われていたんなら話は別です」
「おうっ。そういえばそうだったね!」
明るく振る舞おうと、おでこにパチンと手の平を当てる彼女は、『すっかり忘れてたぜ!』的なことを言いたいんだろうけど。
(何もかも覚えているのに。……あなたという人は)
「ん?」
そういうのはもう、通用しない。別に隠そうとしているわけじゃないことも、もちろん知っている。ただ、言いやすい空気を作っていることも。もちろんオレは、知っている。



