すべての花へそして君へ①


「それで? どうしたの。ネジぶっ飛んでたけど」

「わたしはロボットか」

「それくらい今壊れてたよ」

「気ヲ付ケマス」


 少し歩いてから、ヒナタくんはそう話を戻した。真面目な顔をしてそんなことを言う辺り、どうやら、本気でロボットみたいだと思ったらしい。気を付けなければ。


「……わたしはね、ヒナタくんが好きだから」

「……何回も言わなくていいよ」

「いや、そうじゃなくて」

「は?」

「わたしは、……そのままのヒナタくんが好きだから」


 別に、ジェントルマンなヒナタくんが嫌いって言ってるわけじゃない。そういう扱いをされると、恥ずかしくて照れ臭いけど……でも、嫌なわけじゃない。嬉しいに決まってる。


「だから、わざわざ格好つける必要なんてないんだよ。君がかっこいいことくらい、わたしはよく知ってる」

「……」

「だから、わたしに女扱いもしなくていいんだよ。ありのままの、不器用でやさしい君が、わたしは好きなんだから」


 ふふっと小さく笑いながら。そっと、彼を見上げた……ら。


「……え。 わっ、わたし。何か気に障るようなことを言いましたか……?」


 まさに、『何言ってくれちゃってんの?』 的な。ピキピキマークが今にも浮かんできそうな顔をしていらっしゃるんですけど。


「お、お怒りですか……?」

「……怒ってはない」


 ひっく……。声が恐ろしいほど低いんですけど。……え。わたし、そんな怒らすようなこと言いましたっけ?
 ……無い。記憶力はいいですけど、そんな記憶は一切ありません。というか、心当たりがありませぬ。


「ただ、ズルいなって思っただけ」


 ……え? ず、ズルい?


「敵わない。オレよりよっぽど、かっこいい」


 自嘲気味に漏れた声。それにすごく、不安になった。力が入った手を通して、きっとそれは彼にも伝わっているだろう。


「別に、卑下してるわけじゃないよ。本当のことだし」

「ひな」

「敵うわけないじゃん。無理無理。まず勝とうとか思ってないし」


 だから、そんな顔しなくていいんだってと。小さく笑いながら、彼はほんの少しだけ握る手に力を込めた。


「ただ、……かっこ悪くはなりたくないなって」

「……え?」


 まあもう知ってるだろうけどと。自嘲しながら同意を求められるけれど……。


「……かっこいいとは、思うけど。かっこ悪いとか、思ったことないよ?」


 わたしの中に、それを同意する言葉はもちろん見当たらない。あるとすれば……。


「いや、思うでしょ。あんな話聞かされたら」

「ただ面倒臭い性格してるなと思っただけ」

「……自覚あるけど一言余計」

「スンマセン」


 正直に言ったのにっ。……でも、ちょっと笑ってたからよしとしよう。そうしよう。