彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていたけれど、どこか困ったような表情もしていた。どうかしたのかと。少し不安になって声をかけるけど……。
「ん? ……また心配、かけちゃったなって思ったんだ」
「あれだけ美味しそうに食べてたご飯、今は全然食べられてないみたいだし……」と、少し落ち込んだ様子で、膝の上で手悪さをする。そんな葵を見たことがなかったせいか、ものすごくかわいく見えた。
「でも……でもね? 不器用だけど、こんな風に助けてくれて、すっごく嬉しいし、ちょっと……恥ずかしい」
「……」
――正直言って、めちゃくちゃかわいい。
でも、日向に任されただけあって、二番バッターの俺が手を出すわけには……いかないよな。
(……何の拷問だ、これは……)
自分のことで照れてるわけじゃないけれど、別にもやもやした気分になんてならなかった。なんでだろうかと考えた結果、多分こんな葵を見たのが初めてで、新鮮だったからだという結論に、取り敢えず至った。
「……俺に言われても困るんだが」
「あ! だ、だよね……。ごめんなさいぃ……」
こんな風にしょげた葵も、新鮮だった。今まで見ていたのも、本当の葵だろうけど……。きっと、あいつにしかこんな風に彼女はならないんだろうと。あいつが、こんな葵を見せてくれているんだろうと。そう思った。
「葵は、本当に日向が好きなんだな」
「……あきらくん」
「あ。別に、そんな顔させたくて言ったわけじゃないんだ。ただ、そうなんだなって。ぽろっと口から出ただけだ。気にするな」
「……そう、言われましても」
……困らせてしまった。これじゃあ三振どころか、勝手に四球で塁に出てしまう。いや。それ以前に、だ。
「そもそもどうしてこんなことになったんだ? 俺は、取り敢えずバッターボックスに立ちにきただけなんだが」
「え? それこそ意味がわからない」
「そこら辺は日向にでも聞いてみてくれ」
「内緒にしてるんだから聞いちゃダメでしょ」
それもそうか。……でも、それもいいとして。翼と葵に、一体何が起こったのかは、ちょっと心配だった。
「……ちょっとね。わたしが、よくわからなくなっちゃったんだ」



