すべての花へそして君へ①


 彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていたけれど、どこか困ったような表情もしていた。どうかしたのかと。少し不安になって声をかけるけど……。


「ん? ……また心配、かけちゃったなって思ったんだ」


「あれだけ美味しそうに食べてたご飯、今は全然食べられてないみたいだし……」と、少し落ち込んだ様子で、膝の上で手悪さをする。そんな葵を見たことがなかったせいか、ものすごくかわいく見えた。


「でも……でもね? 不器用だけど、こんな風に助けてくれて、すっごく嬉しいし、ちょっと……恥ずかしい」

「……」


 ――正直言って、めちゃくちゃかわいい。
 でも、日向に任されただけあって、二番バッターの俺が手を出すわけには……いかないよな。


(……何の拷問だ、これは……)


 自分のことで照れてるわけじゃないけれど、別にもやもやした気分になんてならなかった。なんでだろうかと考えた結果、多分こんな葵を見たのが初めてで、新鮮だったからだという結論に、取り敢えず至った。


「……俺に言われても困るんだが」

「あ! だ、だよね……。ごめんなさいぃ……」


 こんな風にしょげた葵も、新鮮だった。今まで見ていたのも、本当の葵だろうけど……。きっと、あいつにしかこんな風に彼女はならないんだろうと。あいつが、こんな葵を見せてくれているんだろうと。そう思った。


「葵は、本当に日向が好きなんだな」

「……あきらくん」

「あ。別に、そんな顔させたくて言ったわけじゃないんだ。ただ、そうなんだなって。ぽろっと口から出ただけだ。気にするな」

「……そう、言われましても」


 ……困らせてしまった。これじゃあ三振どころか、勝手に四球で塁に出てしまう。いや。それ以前に、だ。


「そもそもどうしてこんなことになったんだ? 俺は、取り敢えずバッターボックスに立ちにきただけなんだが」

「え? それこそ意味がわからない」

「そこら辺は日向にでも聞いてみてくれ」

「内緒にしてるんだから聞いちゃダメでしょ」


 それもそうか。……でも、それもいいとして。翼と葵に、一体何が起こったのかは、ちょっと心配だった。


「……ちょっとね。わたしが、よくわからなくなっちゃったんだ」