今はアキくんと話をしているあいつを、二人して目の端に映す。
「オレも。……ありがとう、トーマ」
「いいえ? 彼氏有力候補さん」
「でも、唐揚げは根に持つよ」
「ちっせえ男だなお前」
「だって。あのタイミングはなくない? 確かに〈イチャついてるから頑張って割り込んできてね〉とは送ったけどさ」
「めっちゃベストなタイミングだろ? ……まあ、連絡が入った時は驚いたけどな」
そう言って、トーマもアキくんと同じようにこっちに画面を見せてくる。別に見せなくてもいいし。知ってるし。言ったし。送ったのオレだし。
「〈一番バッターはトーマしかいない ヒットも何も打たずにただ三振して帰ってください〉って? 何のことかと思ったわ」
「でもわかったでしょ? アキくんもわかったから行ってくれてる」
「アキは二番?」
「そう。……今あのピッチャーちょっとがたついてるから、やさしいバッターじゃないと無理なんだよね。三振取れないんだよ」
合間に料理を口に運ぼうと思っても、やっぱりできなかった。口元まで来て……やっぱり、ダラリと腕が下がる。
「そのがたついてる理由は兄貴だろ? ピッチングコーチ」
「そ。流石一番。よくわかってらっしゃる」
だからって、ツバサを責めるつもりはもちろんない。あいつも、あいつなりに悩んで出した結果なんだから。……ただ、あおい自身が、わからないことに怖くなってしまっただけなんだ。
「俺が一番なのは?」
「一番はなんとしてでも塁に出ないと。だから粘ってくれる。もしかしたらフォアボールを選ぶかも知れない」
「はあ。……そろそろハッキリ言ってみろ。俺しか聞いてねえんだ。怒んねえから」
食べようと思っても食べられなかった皿を取り上げられる。取り返そうとは思わなかった。トーマのその声は……やさしさの色がかなり強かったから。
「……トーマは、年上だから」
「信人さんは?」
「シントさんはダメ。あいつと関わった時間が長すぎる」
「そっか」
「……オレは別に、二人に振られにいって欲しくて頼んだわけじゃないんだ」
「わかってるよ。それくらい」
俯いてたら、軽く拳骨を食らう。その拳骨でさえ……やさしすぎた。
「二人ならあいつを諦めないってわかってた。二人なら、あいつを困らせるようなことしないだろうなって」
「違うだろ日向。俺らなら、お前が安心して見ていられたんだろ?」
「……そうとも言う」
別に、みんなのことを信用してないわけじゃない。でも、それでもみんな、あいつのことが好きだから。……ただ、オレがもう。あいつのつらそうな顔だけは、見たくなかったんだ。
「俺らだったら、まだそこら辺の気持ちの融通が利くと思ったんだろ」
「……そうとも、言う。……ごめん」
「何をそんなに謝ってるんだか。できた奴だよ。ほんと」
「……できて、ないよ」
オレじゃあ、これ以上あいつの気持ちを立て直してやれなかった。だから、こんな方法を取ったんだ。
トーマやアキくんにこんな酷いことを。みんなのやさしさに付け込んで頼むような。……こんな方法しか取れないオレは、ほんと最低だ。
「最低だとか、思ってるんだろどうせ」
「うん」
「即答かよ」
「だって、その通りじゃん」
ただあいつのことしか考えてなくて。それで、みんなのことを傷付けていいわけないのに。



