口に料理を運ぼうとしたけれど……それはやめて、二人の様子を見ることにした。
「俺が日向なら、きっとこんな方法は取らないだろうし、今もこうして離れた距離ではいられない」
――ただでさえ今、杜真を一発殴りたい気分だ。
アキくんは、握り拳をつくってそんなことを言ってるけれど、……正直、そんな気分になれなくて。申し訳なかったけど、ただ淡々と「そうだね」と返した。
「……そんなトーンで返されたら、俺の気持ちの持ちようが……」
視界の端に映ったアキくんが、ボソボソって何か言ってたけど、よくは聞こえなかった。ただ見えたのは、彼が軽く握った拳だけで……。
(そうだよね。殴りに行きたいんだもんね。でもオレは。……オレは)
俯いていたら「どうした?」と心配そうに声をかけられた。
「……いや、あいつが好きならさ、そうだよねって」
「……日向は杜真を殴りたくないのか?」
「ああ言った手前殴れはしないけど、取り敢えずは『ありがとう』かな」
オレが頼んだんだ。だから、トーマをどうこうするつもりはもちろんない。ただ、オレはさ。
「好きなら好きでいいんじゃないかってこと。無理にやめようなんてそんなこと、しなくてもいいんじゃないかってこと」
それが一体誰のことを言っているのか。わかったアキくんは苦笑い。ポンと、オレの肩に手を置いた。
「大変だな。お前も」
「でしょ。いいような、悪いようなだけど。……その兄貴がちょっとやっちゃったからね。そのフォローかな。なってるかわかんないけど」
「……ほんと、できた弟だな」
「アキくんほどじゃないよ」
最後にもう一度オレの肩を叩き、こちらへ向かってくる奴と一言二言交わしたアキくんは、あいつの元へと行ってくれた。
(……できた、弟か)
オレは……できてなんてない。本当にできてたら、ちゃんと口で言ってるだろうし。
でも、あいつが考えてることもわかるから。あいつが決めたんなら、……オレは、何も言えない。
視線を下げていたら陰った。どうやら、一番バッターが文句を言いに来たらしい。
「あれ? トーマ、ちょっと泣いた?」
「……ちょっと、泣かされたわ」
覇気がなかった。というか、素直にそう返ってくる辺り結構メンタルきてるっぽい。
「なに。トーマなんか大っ嫌いって言われた?」
「その逆だわ。大好きって言われたし」
ふざけんな。もう隠さねえから。んなこと言われてムカつかないほどオレはできてないんだよ。さっきと違う意味で。
(……けどまあ、そのあとに続く言葉なんて)
「……ありがとうって、めっちゃ言われた」
「だろうね」



