すべての花へそして君へ①


 口に料理を運ぼうとしたけれど……それはやめて、二人の様子を見ることにした。


「俺が日向なら、きっとこんな方法は取らないだろうし、今もこうして離れた距離ではいられない」


 ――ただでさえ今、杜真を一発殴りたい気分だ。
 アキくんは、握り拳をつくってそんなことを言ってるけれど、……正直、そんな気分になれなくて。申し訳なかったけど、ただ淡々と「そうだね」と返した。


「……そんなトーンで返されたら、俺の気持ちの持ちようが……」


 視界の端に映ったアキくんが、ボソボソって何か言ってたけど、よくは聞こえなかった。ただ見えたのは、彼が軽く握った拳だけで……。


(そうだよね。殴りに行きたいんだもんね。でもオレは。……オレは)


 俯いていたら「どうした?」と心配そうに声をかけられた。


「……いや、あいつが好きならさ、そうだよねって」

「……日向は杜真を殴りたくないのか?」

「ああ言った手前殴れはしないけど、取り敢えずは『ありがとう』かな」


 オレが頼んだんだ。だから、トーマをどうこうするつもりはもちろんない。ただ、オレはさ。


「好きなら好きでいいんじゃないかってこと。無理にやめようなんてそんなこと、しなくてもいいんじゃないかってこと」


 それが一体誰のことを言っているのか。わかったアキくんは苦笑い。ポンと、オレの肩に手を置いた。


「大変だな。お前も」

「でしょ。いいような、悪いようなだけど。……その兄貴がちょっとやっちゃったからね。そのフォローかな。なってるかわかんないけど」

「……ほんと、できた弟だな」

「アキくんほどじゃないよ」


 最後にもう一度オレの肩を叩き、こちらへ向かってくる奴と一言二言交わしたアキくんは、あいつの元へと行ってくれた。


(……できた、弟か)


 オレは……できてなんてない。本当にできてたら、ちゃんと口で言ってるだろうし。
 でも、あいつが考えてることもわかるから。あいつが決めたんなら、……オレは、何も言えない。

 視線を下げていたら陰った。どうやら、一番バッターが文句を言いに来たらしい。


「あれ? トーマ、ちょっと泣いた?」

「……ちょっと、泣かされたわ」


 覇気がなかった。というか、素直にそう返ってくる辺り結構メンタルきてるっぽい。


「なに。トーマなんか大っ嫌いって言われた?」

「その逆だわ。大好きって言われたし」


 ふざけんな。もう隠さねえから。んなこと言われてムカつかないほどオレはできてないんだよ。さっきと違う意味で。


(……けどまあ、そのあとに続く言葉なんて)

「……ありがとうって、めっちゃ言われた」

「だろうね」