(……大丈夫、か。ちょっと焦ったけど)
そんな二人の様子を、きっといろんな人が目の端に入れているんだろうけれど。もちろんオレも見ていた。ガッツリ。遠くからだけど。それはさておきだ。
(ああー……。ヤバかった)
新しく取った料理に顔面をつけたいくらい、思い出しただけでにやけてしまう。
(もう……あんな、かわいい顔すんな。ばか)
恥ずかしいならしなけりゃいいものを。
彼女の表情を、恥ずかしそうに身を捩る姿を、思い出しただけで襲ってくる、甘い締め付け。
(あー……。……おかしくなりそう)
もう、何度死にそうになったかわからない。ほんと、……唐揚げ食いたかった。
(……それも、さておき、だ)
抱き締められているあいつを。抱き締めているトーマを。ちょっと不安げに見ていたら声をかけられた。
「大変だな。日向」
「……アキくん」
同じようにあいつらのことを見ているアキくんが、オレの横に立ったけど……。彼のお皿は、ここぞとばかりにデザートだらけだった。
「……夜遅くにそんな食べたら、またあいつが怒るよ」
「そうしたらまた、教室を開いてもらえばいいな」
「……ほどほどにしてあげてね」
「やさしいな、日向は」
お裾分け、と。お皿にケーキを分けてくれるけど……正直、まだデザートは要らなかった。
「アキくん……」
「俺だったら、引っぺがしに行く」
「え?」
そっとケーキをアキくんのお皿に返そうとしたら、少し剥くれているような彼の声が降ってくる。それが何のことかは、目線が変わってはいなかったら、すぐにわかったけど。
(でも、オレは……)
「それに、こんな連絡はしない」
そう言って見せてくるのはスマホの画面。……見せなくていいってば。
〈二番バッターさん
できれば三振して帰ってあげてください〉
『どういうこと?』っていう視線付き。でも『バッター』の意味とか『誰』に三振するのかまでは、彼なら説明しなくてももうわかっているだろう。アキくんが知りたいのは、オレがどうしてこんなメールを送ってきたのかってことだ。
「……ちょっと、うちの兄貴がやらかしたんだよね」
まあそのあとオレも、ド直球のデッドボール食らわされたんだけど。
「だったら俺、三番バッター?」
「いや、ツバサはバッターじゃないから」
「そうなのか?」
「そう」



