すべての花へそして君へ①


(……大丈夫、か。ちょっと焦ったけど)


 そんな二人の様子を、きっといろんな人が目の端に入れているんだろうけれど。もちろんオレも見ていた。ガッツリ。遠くからだけど。それはさておきだ。


(ああー……。ヤバかった)


 新しく取った料理に顔面をつけたいくらい、思い出しただけでにやけてしまう。


(もう……あんな、かわいい顔すんな。ばか)


 恥ずかしいならしなけりゃいいものを。
 彼女の表情を、恥ずかしそうに身を捩る姿を、思い出しただけで襲ってくる、甘い締め付け。


(あー……。……おかしくなりそう)


 もう、何度死にそうになったかわからない。ほんと、……唐揚げ食いたかった。


(……それも、さておき、だ)


 抱き締められているあいつを。抱き締めているトーマを。ちょっと不安げに見ていたら声をかけられた。


「大変だな。日向」

「……アキくん」


 同じようにあいつらのことを見ているアキくんが、オレの横に立ったけど……。彼のお皿は、ここぞとばかりにデザートだらけだった。


「……夜遅くにそんな食べたら、またあいつが怒るよ」

「そうしたらまた、教室を開いてもらえばいいな」

「……ほどほどにしてあげてね」

「やさしいな、日向は」


 お裾分け、と。お皿にケーキを分けてくれるけど……正直、まだデザートは要らなかった。


「アキくん……」

「俺だったら、引っぺがしに行く」

「え?」


 そっとケーキをアキくんのお皿に返そうとしたら、少し剥くれているような彼の声が降ってくる。それが何のことかは、目線が変わってはいなかったら、すぐにわかったけど。


(でも、オレは……)

「それに、こんな連絡はしない」


 そう言って見せてくるのはスマホの画面。……見せなくていいってば。


〈二番バッターさん
 できれば三振して帰ってあげてください〉


『どういうこと?』っていう視線付き。でも『バッター』の意味とか『誰』に三振するのかまでは、彼なら説明しなくてももうわかっているだろう。アキくんが知りたいのは、オレがどうしてこんなメールを送ってきたのかってことだ。


「……ちょっと、うちの兄貴がやらかしたんだよね」


 まあそのあとオレも、ド直球のデッドボール食らわされたんだけど。


「だったら俺、三番バッター?」

「いや、ツバサはバッターじゃないから」

「そうなのか?」

「そう」