カードの意味がわかったら、先にわたしと話をするようにっていうのが、シントの作ったルールなんだっけ? 元は。ヒナタくんがさっさと、トーマさんよりも酷い反則技使ったから元のをすっかり忘れてたや。
「でも、そのことは一旦保留にしてって言われたんだ」
「……まあ、そうなりますよね」
「そうそう。それに、そのあとすぐ日向から『5月に入ったら今日までは空けとけ』とか連絡が来てさ。二人して何かしてるんだろうなとは思ってたんだ」
――でも、自分は結局何もできなかった。それが今、悔しいんだと。
彼は言葉通りの表情をしていた。
「何もだなんてそんな。……だって、トーマさんは」
言いかけたわたしの口を、そっと指ひとつで彼は止めた。それだけで『わかってる』と。『言わせてくれる?』と伝わってきて。わたしは出かけた言葉を飲み込んだ。
「……だからね? 君が二重人格者なのかも知れないってこと、その時初めて知ったんだ。それから、それが嫌だってことも。助けて欲しいってことも」
悔しそうに、苦しそうに話す彼を真っ直ぐ見られなくて俯いた頭に、やさしい重みが来る。
「……そして、こんなやり方でしか助けを求められなかった君も」
それが彼の大きな手だとわかった時には、もうわたしの頭の後ろへ移動していて……。
「……いつも、時間と恐怖が付き纏っていた君も」
ああ。頭を撫でてくれたのかと。理解した時にはもう、流れるように腕の中。彼はわたしを、キツくキツく抱き締めた。
「……っ。と、とーまさ」
「ごめん」
聞こえたのは、掠れた声。
「……と、まさ」
「ごめん。ごめんね、葵ちゃん」
腕の力が強くなる。苦しいけれど、そうしている彼の方が、よほど苦しそうだった。
「……とーま。さん」
「怖かったね。苦しかったね。つらかったね」
微かに届くのは、今にも泣きそうな彼の声。何か言おうとしても、すぐにそうやって被せられた。
「悔しいんだ。君を……、俺が助けてやれなかったことももちろん。日向に取られたこともそうだけど。……何よりも、そんな現状に置かれてる君に。早く気付いてやることなんてできなくて……。……っ」
――悔しかったんだっ。
今まで自分にできないことなんてないんだと。前に彼はそう言っていた。……今さっきも似たようなこと言われたけれど。
「気付いてあげられなくて……。ごめん」
(とーまさん……)
こればかりはどうしようもない。それだけ厳重にされていたんだ。わたしが、……頑固だったせいなんだ。
……そう言ったところで彼はきっと、どうやったって自分を責めることはやめないんだろう。
「許しません」
――だったらもう、そう言うしかないじゃないか。
「ご……、めん」
「許しませんっ。トーマさん」
少しだけ、腕の力が弱まった。きっと、声色でわかってくれたんだ。
「……葵ちゃん」
「もう『ごめん』って言ったら許しませんよ?」
だって、言う必要なんてないんだから。こんなにも幸せなのは、決して一人の力ではないんだ。
「聞いてて? トーマさん。『聞いて』ください」



